手書きのコーディングテストに否定的な意見が続出
このtrackを2年以上利用し、エンジニアの採用に役立てているのがクラウドERPの「ZAC Enterprise」などを提供しているオロである。講演の後半は山根氏が聞き手となり、オロの黒河氏に同社のエンジニア採用におけるtrackの活用方法についてたずねるトークセッションを展開した。
オロがtrackを導入したのは2016年である。同社では、trackを導入する前から、エンジニアの選考フローにコーディングテストを取り入れていた。その背景には、情報系専攻の学生でも、実際に動くものを開発した経験のない人がいたことだ。彼らは入社後にパフォーマンスが発揮できず、本人のモチベーションダウンやベテランエンジニアの負担につながっていた。これを問題視した同社では、「学歴や面接だけで優秀なエンジニアかどうかを判定することが難しいのであれば、コードを書いてもらって判断しよう」となったと黒河氏は当時を振り返る。
ただし、当時のコーディングテストは来社して手書きで受けてもらっていた。売り手市場の中、面倒に感じて応募を控えてしまうケースも少なくなかった。さらに採点も手作業。通常の業務を行う傍ら、採点を行わなくてはならない現場の負担も大きかった。「そもそも手書きのコーディングに意味があるのか」「社内であまり使われていない言語のコードを読むのは負担が大きい」という否定的な意見も続出したという。
そこで、「現場の時間が有限である以上、優秀な人材を早期に見極め、クロージング(内定を承諾してもらうための取り組み)にリソースを集中させたいと考えた」(黒河氏)という同社はtrackの導入を決定した。売り手市場では、選考フローの途中で辞退された場合の損失が大きい。現場の評価負担を小さくし、短期間で応募者のスキルを見極めるには、人事が手軽に判断できるツールが必要だったわけだ。
求める人材像の定義がまず必要、その上で基準を探る
ツールを入れたとしても、当然ながら、必要な人材を正しく選考できなければ意味がない。黒河氏も求める人材像を明らかにする重要性を強調した。
「弊社の場合、プロダクト開発事業でも受託事業でも、社内における開発言語や技術の標準を毎年更新しています。どんな人材が必要かを考えた時、エンジニアが今馴染んでいる技術を基準に考えるのではなく、『問題解決能力が高いエンジニア』という人材像に至りました。具体的には問題解決に必要な新しい技術を学び、実務としてアウトプットできる人材でした」(黒河氏)
これを明確にした上で、社内にいる問題解決能力が高いエンジニアにテストを受けてもらい、ハイパフォーマーに求められる基準値を割り出したと黒河氏は話す。Javaを使って開発していると、つい「Javaでの開発経験5年以上」という条件で求人を出したくなる。そうではなく、長期的な観点から問題解決能力を判定するテストを独自で設計し、ハイパフォーマーになりうるかを判断するようにした格好だ。
「いわゆる伸び代がある人は、未知の問題に対しても高いスコアを出すことができます。短時間で解決方法についての勘所を見つけることができるのでしょう。優秀なエンジニアは情報の取捨選択がうまいので、論理的に考えると解ける問題で総合力を見極めるようにしています」(黒河氏)
加えてオロでは、人事が容易にかつ正確にスキルを見極めることができるよう、ハイパフォーマーとローパフォーマーの閾値を設定し、選考フローを運用できるようにしているという。導入したtrackが効果を発揮する準備がこれで整った。