話者
- 武井浩三氏(ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役)
- 島田寛基氏(株式会社scouty 代表取締役)
- 山田裕嗣氏(EnFlow株式会社 代表取締役、一般社団法人自然経営研究会 代表理事)
scoutyでホラクラシーを導入したわけ
――今日はホラクラシーの実践に取り組む企業、団体のトップ3名の方にお集まりいただきました。まずはscoutyの島田さんから、どのようにホラクラシーを実践しているのかを教えていただけますか。
島田寛基氏(以下、島田):弊社でのホラクラシー[1]は、試行錯誤しながら8月から現状の形になっています。ホラクラシー・ワン社が提供しているホラクラシー憲法を自社用にアレンジしました。それまではガチガチにオリジナルのルールに従っていました。
武井浩三氏(以下、武井):そもそもなぜホラクラシーに着目したのですか?
島田:上場準備の一環で、投資家に組織図などを出す必要がありました。最初に描いた組織図が「実態に即していない」と社員から不評で、いろいろと調べていくうちにホラクラシーにたどり着きました。当初は「丸く囲めばいいのかな」という程度の理解で、コアロールの意味もよく分かりませんでした。そのうちにブライアン・J・ロバートソンさんの著書『HOLACRACY 役職をなくし生産性を上げるまったく新しい組織マネジメント』などを読み、社内でも理解が進んで、「これはいい」とひかれました。
もともとホラクラシーに近いことをしてはいました。組織のポリシーとして「専門性の高い人を採用する」があり、専門家には権限を与えてマネジメントはしないことにしています。例えばエンジニアを採用するとき、単に「エンジニアを10人」ではなく、「バックエンド専門」「データベーススペシャリスト」など必要な役割に合う人を採用しています。ホラクラシーもこれに近いと思います。
山田裕嗣氏(以下、山田):もとから相性がよかったのですね。
島田:最初は社外の存在が定義されていない、日本語の情報源がないなどで苦労しましたが、次第に「ガバナンスミーティング[2]で組織の歪みを解消する」などのメリットが見えてきました。そうして、組織が改良されて理想のガバナンスに近づくという流れができてきました。
山田:導入前後で何が変わりましたか?
島田:周囲は助言しつつも最終的には意思決定者が判断を下すようになり、業務にスピード感が出てきました。加えて、誰に質問すればいいか分からないような問題が生じた時、ひずみの解決が速くなりましたね。例えばインターンが勉強会を開こうとし、そのために費用が発生したとします。しかし、誰に相談したらよいか分からない。そこで新しいロールが誕生して、解決していきます。
武井:ホラクラシーはルールに則るのが大変で、多くが断念していると聞いています。scoutyでは最初にヒエラルキー的な組織を作り込み過ぎていなかったから、やりやすかったのかもしれませんね。
島田:スタートアップ企業であるほか、私がメンバーより年下だったことや、周りにいるのが専門家ばかりだったので、私がトップダウンで指令を出すという組織ではありませんでした。
山田:中にはトップが権限を手放せずうまくいかないケースもあります。それがなかったのでしょうね。
島田:口では「手放したい」と言いつつ、抱え込んでしまうタイプではあるんですが(苦笑)、平均以上に権限を委譲したいタイプでもあると思います。それでもこれだけ強烈な権限委譲のフレームワークがあると、権限委譲しやすくなります。2018年の目標は「暇になること」としていて、自分のロールをどんどん外していきました。
注
[1]: ホラクラシーとは、組織の中央にいる者が権限をもって組織を決めるのではなく、ガバナンスプロセスにその権限を委譲して民主的に組織を運営する方式。業務遂行に不適合な組織構造があれば、ガバナンスプロセスの中で柔軟に変更していく。
[2]: ホラクラシーの中で、組織を見直すために実施するミーティング。