パネリスト
- 倉貫義人氏(株式会社ソニックガーデン 代表取締役社長)
- 武井浩三氏(ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役)
モデレーター
- 山田裕嗣氏(一般社団法人 自然経営研究会 発起人/代表理事)
セルフマネジメントがもたらす2つの効果
山田裕嗣氏(以下、山田):まずは両社と同じく、フラットやオープン[1]などの「新しい組織」を実践する25社に対し、事前に実態調査した結果を見ながら、お話をうかがっていきたいと思います。「今の経営スタイルって事業にどんなシナジーがあるんですか?」という質問に対しては、すごくたくさんのキーワードが出てきました。そこで、(関連するものを)四角で囲んでみました。
メンバーの「巻き込み力、主体性」や「任せられるメンバーが増える」など人の成長に関するものもあれば、「事業がたくさん生まれれば成長スピードも早くなり、事業自体も良くなる」というのもありました。特徴的なのが「イノベーティブなチャレンジ」や「可能性を広げたり、協力の幅」「日常的に小さなシナジー」など、いろんなことが起こせるというのが結構あったこと。また、「満足度が高い」「優秀な技術者がいてくれる」とか、「数字じゃなくてお客さんと向き合わせるから顧客ロイヤリティも強くなるよね」というのもありました。右下にあるのは、ざっくりくくると生産性という話になると思いますけど、「部門を超えてプロジェクトができる」とか、「ある種健全に対立するから前に進む」よね、という観点もありました。このテーマは答えが1つじゃないんだな、という結果でしたが、何となくこう分類できるかなと思ってくくってみました。
改めて問いに戻って、「事業にどんなシナジーがあるんですか?」という問いに対し、お二方はどういうふうに感じますか。
倉貫義人氏(以下、倉貫):この図で四角の枠でまとめていただいているところは、基本的にアグリーですね。セルフマネジメントで事業の成果が上がるという点には2つあると思います。
まず1つは、コストが下がって成果が上がるパターン。つまり、ローコストで大きなバリューを出す。セルフマネジメントにして管理コストを下げるのもその1つです。管理職が要らないから販管費が減りますし、全員がプレイヤーになったら全員が稼ぐことになります。会社が管理する人員が減り、その分のコストもなくなります。また、無駄な会議を減らせるというのもあります。セルフマネジメントできる人たちでコミュニケーションできる環境を作っておけば、「週1でコストのかかる会議しましょう」ということもなくなります。
もう1つが、クリエイティビティが高まるという点。僕らの言葉でいうと、クリエイティブな仕事の定義は「再現性の少ない仕事」なんですね。ライティングもそうだし、デザインもそうだし、コンサルティングもそうだし、新規事業の企画も、マーケティングもPRも、基本的に昨日やった仕事を明日もやるということはない。全く毎日同じことをやらなくなってきたら、クリエイティブな要素が増えてきていると。
じゃあ、クリエイティブな仕事って、指示命令されたり管理されたりして生産性が上がりますか。僕はアメとムチでは生産性は上がらないと思っています。内発的動機で、自分が楽しいなと思えた時に一番上がる。そう考えた時、アメとムチを振るう上司っていらないんじゃないかと。つまり、管理を外すことにはコストを下げるって面と、クリエイティビティを高める面と両方あるわけです。
山田:クリエイティビティを高めるために、繰り返しを止める仕組みを作らなきゃいけないと。そこはすごいパワーを割かれているんでしょうか?
倉貫:そうですね。全く同じことを繰り返し行うルーチンワークって、人間がやる必要がないと思っています。僕らのところだと、ルーチンワークはなるべくIT化してしまう仕組みがあります。例えば、面倒なルーチンワークの1つに毎月の請求書発行がありますが、これは誰かに作業を集中させるのではなく分散、つまり社員一人ひとりが自分の顧客に自分で請求書を発行する方向でシステム化しました。メンバーには月末になるとシステムから「数値を確認してください」と通知が届き、OKボタンを押したら発行される仕組みです。作業を分散化したことで管理コストも減りました。
こうした仕組みづくりの時間は取っておいたほうがいいと思います。僕はエンジニアですが、エンジニアの世界では「楽をするための苦労は厭わない」という言葉があって。いっとき苦労するのは好きだなあ、という感じでやってます。
山田:そこはすごい大事な気がしています。ただ、何を仕組み化するかという判断は難しいと思うんですが、そこはどうされているんですか。
倉貫:基本的に何でも仕組み化しようとします。基本的に面倒くさがり屋なんですよ。極力楽したいな、と。
山田:何かを仕組み化するんじゃなくて、すべてを仕組み化したい前提で動いている?
倉貫:そうです。もし本当にAIのディープラーニングがすごい発達して、めちゃくちゃ効率化して仕事が減るようになったらなあ、と思ってどんどんやってるんですけど……一向に減らないという。
山田:では、武井さんはどうでしょう?
武井浩三氏(以下、武井):これすごくよくまとまっていますよね。うちの場合は事業がスケールしているフェイズでもないし、これから何があるかなというのが楽しみだったり、伸びていく環境をどう作るかが課題だったりするのですが……でも、「事業がたくさん生まれる」というのはあるかなあ、と思います。うちは今30数名でやっていて、不動産プロダクトが3つに、受託的なコンサルティングや人材事業など事業が4つくらいあるのかな。悪く言えば節操がないというか。でも、事業が生まれちゃうんですよね。
「事業成長スピード」については、どのマーケットをチョイスするかのほうが成長要因として大きいと思います。千差万別と言ってしまえば元も子もないんですけど。書籍『ティール組織』には、(組織形態が)オレンジからグリーンになってティールになって……って上がれば上がるほど複雑なものを扱えるって書いてあるんですよね。逆にいうと、「この商品がどれだけ売れるか」といったシンプルなビジネスモデルでは、しっかり管理するオレンジ型でやったほうがグイッと成長するんですよ、多分。だってシンプルなので。だけど、複雑な事業を行う時には、複雑なものに対応できる組織形態のほうが適しているのは間違いないなと思いますね。僕らがやっている不動産マーケットって、スタートアップが生まれにくいんですよ。めちゃくちゃ複雑でステークホルダーが超多いから。そういった中では、僕らみたいな(フラットで自律型の)組織形態は適しているなと思います。
注
[1]: 「フラット」は上司・部下といった階層を圧縮あるいは排除した組織であること。「オープン」は従来会社側が保持し、社員は見られなかった情報を、社員なら誰でも見ることができるように公開していること。