矢野経済研究所は、国内のHCM(Human Capital Management:人材管理)市場を調査し、参入企業・ユーザー企業の動向、将来展望を明らかにした。調査期間は2020年12月~2021年4月。
2020年のHCMライセンス市場規模は、前年比13.6%増の482億6000万円となった。高成長の背景には、ユーザー企業の業務効率化や戦略人事の実現、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進などを要因とした市場の継続的な成長に加え、コロナ禍によるプラスの影響がある。これはコロナ禍でテレワークが普及したことで、オンライン上で業務を遂行すべく、さまざまな事業活動のデジタル化が加速したため、また、これまで紙やExcelで管理していた各種人事業務においても、システム化のニーズが高まったためである。
また、従業員の人事評価や健康状態の把握、会社へのエンゲージメント維持などに課題を抱えるユーザー企業が増加する中で、解決策の一つとしてHCMの導入が進んだことも挙げられる。一方、一部企業ではHCM製品導入の保留や先送り、解約などが生じたものの、これらのマイナスの影響が限定的だったことで、2020年はコロナ禍によるプラスの影響がマイナスを上回る形で市場が伸長した1年となった。
同社が注目するトピックスとして、タレントマネジメントシステム市場が挙げられた。タレントマネジメントシステムとは、人材情報管理や採用管理、目標管理、要員計画、報酬管理などの機能を提供するシステム製品で、2020年のタレントマネジメントシステム市場は、前年比22.1%増の180億9400万円となった。
2020年は、タレントマネジメントシステムを専業とするベンダーが特に好調に推移した。専業ベンダーが提供する製品は、導入コストが安価で運用が容易であることから、中小企業を中心にニーズを獲得している。また、UI(操作性)やUX(顧客体験)の向上に注力することでファンが増え、導入ユーザー企業数および製品売上高が伸長している。近年は、タレントマネジメントシステムの導入実績が拡大したことで信用が高まり、徐々に中堅から大企業での導入も増加している。ユーザー企業の業務効率化や戦略人事の実現を目指す取り組みが続く中、タレントマネジメントシステムに対するニーズは今後も根強いと、同社は見込む。2021年のタレントマネジメントシステム市場は、前年比20.2%増の217億5000万円になると予測している。
また、2021年のHCMライセンス市場規模は、前年比12.5%増の543億円になると予測。現在も新型コロナウイルスの影響は続いており、HCM市場では2020年と同様、プラス・マイナス双方の影響がありながら、プラスの影響がマイナスを上回り好調に推移する見通し。また、業務効率化や戦略人事の実現、DX推進といった動きは、コロナ禍により一層加速し、HCM市場の追い風になると予測している。