そもそも「従業員エンゲージメント」とは何か
エンゲージメント(Engagement)は直訳すると「約束、契約、婚約」となるが、従業員エンゲージメントは「企業と従業員の結びつき」だと捉えるとイメージしやすいのではないだろうか。さらに言い換えると、「企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い」といえるだろう。今、この従業員エンゲージメントが、組織状態を表す指標として非常に注目されている。
近年注目が集まっている指標ではあるものの、組織状態を知るための調査の歴史は意外にも古く、第1次世界大戦中に米軍が部隊の戦闘意欲を「モラルサーベイ」という形で調査している。戦後、それらを欧米企業が採用するようになり、さらにその後、日本でも従業員満足度調査などとして多くの企業が導入などを進めた。従業員が会社に対して満足していれば、より従業員の生産性が向上すると考えてのことだった。
しかし、この従業員満足度調査には大きな問題があった。1980年代の様々な分析によると、従業員満足度調査は仕事の業績との相関が見られるという報告はなかったのである。そんな中に出てきた、新しい組織調査が従業員エンゲージメントを用いた組織調査だ。
従業員エンゲージメント調査と従業員満足度調査には大きな違いが3つある。
1つ目は、従業員エンゲージメント調査では「満足度」に加えて、「期待度」を調べることだ。従業員満足度調査では、「上司や給料、仕事などに対して満足しているか」だけに着目して調査を実施する。しかし、本来私たちが人や事柄に対して「満足」を得られるかどうかは、そのことに対して事前にどのぐらい期待しているかという「期待」とのギャップであるはずだ。
例えば、ファーストフード店に期待する接客サービスと、高級レストランに期待する接客サービスは異なる。とはいえ、それぞれの期待を満たしていれば満足できるし、そうでなければ不満になる。これと同じ理屈だ。絶対的な満足のレベルではなく、事前の期待値との相対的な問題なのである。
また、満足度だけを調査する場合、満足度が低い項目へ限りある経営資源を投下することになり、会社は疲弊していく。しかし、「期待」を調べることで、期待度が高く満足度が低い事柄は改善に注力し、逆に期待度が低く満足度が高い事柄は注力度合いを下げる、といった戦略的な意思決定が可能となる。
2つ目の違いは、従業員エンゲージメント調査では「個人」ではなく、「関係性」について調べているということだ。例えば、従業員満足度調査では「上司に満足しているか」「給料に満足しているか」「仕事に誇りを感じているか」など、個人の気持ちに着目して調査を実施する。しかし、この調査で分かることから、あなたはどう組織を変えればよいか、すぐに理解できるだろうか。その解決策にたどり着くことは難しく、従業員から意見を聞くことになるのではないだろうか。
本当に注目すべきは何か。それは、従業員を取り巻く「関係性」を調べることだ。従業員を取り巻く関係性とは、具体的に全部で16個ある(下図)。
例えば、従業員は会社の「理念戦略」への期待度が高く、満足度が低いと分かれば、会社は自社の理念を自社に浸透させる努力や、戦略目的の納得感を高めるための説明機会が不足していると分かるし、逆に、「施設環境」への期待度が低く、満足度が高いとなれば、業務環境への投資は削減してもよいかもしれない。つまり、従業員が会社に何を期待しているのかが分かれば、会社は手を打てるのである。
3つ目は、従業員エンゲージメントは、実際に生産性や業績との関連性が見られるということだ。このことは、当社とデータ分析の専門家である慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 岩本研究室との共同研究でも明らかになっている。