私が見出した一筋の道に関してのエピソードは前回をお読みください。なお、登場人物などの名称は仮称です。
昨日、エンジニアの熊田さんや根住さんから教えてもらった転職サイト「Green」を自分の目で見て動かしてみようと思い、熊田さんからIDとパスワードをもらいました。
Greenの管理画面を開いてみると、そこには企業情報や求人票を記載する画面の他に、インタビューを記載する画面や候補者を検索する画面がありました。
「なんだ? 企業情報や求人票の画面は理解できるけど……今まで私が見ていた管理画面とは少し違う! いったいどこから触ったらいいんだろう?」
一瞬、不安がよぎりました。しかし、Greenを攻略しないという選択肢は私の中にはありませんでした。
「大丈夫だ。私は1歩ずつ前に進んできたんだから! 今は難しく感じるこの管理画面だってきっとマスターできるはず!」
少しだけ以前を振り返り、できなかったことができるようになった自分を励まして、Greenに情報を掲載してみることにしました。
「よしっ! まずは、できることからやってみるぞ」
企業情報と求人票から取りかかることに決めた私は、前回熊田さんが教えてくれた情報を盛り込みながら、それら2つの作成を進めました[1]。
会社概要や仕事内容、募集背景、配属部署、応募資格、年収、福利厚生と求人票の作成はスムーズに進んでいきました。ですが、作成が終盤に差し掛かった頃です。自由に記載できる項目があることに気が付きました。
「自由項目欄があるけど……ここには何を書くべきなのだろう? そうだ! 他社はどんなふうに書いているのか調べてみよう」
Greenで他社を検索し、企業情報から求人票を読み漁っていきました。すると、ハンマーで頭を叩かれたような衝撃が走りました。
「ダメだ! こんな企業情報や求人票の書き方じゃダメなんだ! 私が書いているのは必要事項だけだ。他社は、インタビューも盛り込んで情報発信している。何を開発してどんな人たちと働くのかが想像ができる。読んでいてワクワクもする。私が作成している企業情報や求人票にはこれが足りない。インタビューなんてウチはそもそもない。すごく一方的に感じる」
そう思うと同時に、私はエンジニアフロアに向かって走り出しました。
「熊田さん、根住さん、ダメなんです! ワクワクしないんです!」
息を切らしながら熊田さんと根住さんに伝えました。
私の言葉が理解できずに呆気にとられる熊田さんと根住さん。熊田さんがおもむろに話し始めました。
「宇田川さん、どうした? 何がダメ? ワクワクって何のこと?」
熊田さんの言葉に私は興奮が冷め、我に返って言い直しました。
「いきなり突拍子もないことを口にしてごめんなさい。実は今、Greenに掲載する企業情報や求人票を作成するために、他社の“Green”を読み漁っていたんです。それで気づいたんです! 他社は求職者に向けた情報を発信していて……どんな環境でどんな人たちと働くのか、何のためにこのサービスを開発しているのかとか。さらに、インタビューまで盛り込んでいて、読んでいてワクワクするんです。その情報がウチの“Green”には足りないんです! ウチの“Green”にはワクワクがないんです。こんなに情報満載のIT企業とウチが並んでしまったら、完全に見劣りしちゃいます! ちゃんと、しっかりとウチの“Green”を作っていかないと……」
状況を理解した根住さんが口を開きました。
「それって、エンジニアが転職するときに知りたい内容ですよね。多分、僕らで言うところの要件定義とか基本設計が必要なんじゃないですかね? 宇田川さん、どう思います?」
「要件定義? 何かの設計をしていくんですか、“Green”で?」
何がどう当てはまるのかが分からずに困惑していると、熊田さんの目が光り、饒舌に話し始めました。
「根住さんの言うとおりだ! 大元の要件定義となるものを考える必要がある。そこから基本設計と詳細設計に落とし込んでいかないとダメだね。今は、スカウトを実装するときじゃない! 根住さん、宇田川さん、業務終了後に話し合おう。それまでに宇田川さんにはやっておいてもらいたいことがある!」
今までに見たことのない熊田さんの凛々しい表情に驚きながらも、私はすぐにメモを取る準備をしました。
「宇田川さんは、他社と比べてウチには何が足りないのかを調査して、何があれば見劣りしないのかをピックアップしてほしい。私と根住さんはエンジニア目線で考えてみる」
私は、熊田さんの指示に大きくうなずき、自分のデスクへ走って戻りました。