パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」は、「決定年収上昇率ランキング(職種版)」を発表した。
なお、決定年収とは、転職を受け入れる企業が採用決定時に個人に提示する年収のことを示す。調査の概要は以下のとおり。
- 調査方法:前職の職種大分類・職種を問わず、転職先での職種大分類・職種において提示された決定年収を指数化し、ランキング化
- 調査対象:2019年1月~12月末、2021年1月~12月末までの間に「doda」経由で転職に成功した20~65歳の男女(正社員)
【職種大分類別】コロナ前後での決定年収上昇率ランキング(2019年と2021年比較)
2021年の決定年収上昇率を見ると、11のうち8つの職種大分類で、コロナ前である2019年の決定年収を上回っている。
上昇率ランキング1位は「クリエイティブ系」、データ分析スキルやデジタルスキルを身に着けたクリエイターの人材競争激化が背景に
職種大分類で上昇率1位の「クリエイティブ系」の決定年収は、コロナの影響を受けず、右肩上がりの状況が続いている。その背景には、2つの理由が考えられると同社は述べている。
1つ目は、求人数の急激な増加による人材獲得競争の激化。2021年の求人数は、2019年比で+140%となっている。コロナをきっかけに、様々な業界でサービスをWebやアプリに移行する動きが進み、クリエイティブ人材の活躍の場が増えた。その結果、人材競争が起こり、年収を引き上げて採用を行う企業が増えたという。
2つ目は、クリエイティブ人材の給与レンジが適正化されつつあるという理由。従来、「クリエイティブ系」職種は採用実績やポジション数が少なく、企業ごとに提示する年収にバラつきがあった。しかし、ここ数年でクリエイティブ人材の採用実績は急激に増加。各企業で、職務に対する年収の適正化が行われた。これらを背景に、決定年収が上昇したと推測できる。
なお、Webサービスを提供する企業では、年々クリエイティブ人材に求めるレベルが高まっている。これまでは進行管理力のある人材が求められていたが、現在は、データに基づく戦略的なクリエイティブ設計までできる優秀な人材を確保することで、他社との差別化を図る動きが見られる。よって今後は、データ分析・活用やデジタルスキルを持つクリエイター人材の決定年収が高まると予想される。
2位は「販売/サービス系」、コロナ禍以降の事業立て直しにつながるSNS運用やマネジメント経験がある人材求める
2位の「販売/サービス系」は、スキルと経験のある人材の採用に注力したため、決定年収が上昇した。コロナ流行以前は慢性的な労働力不足に悩まされていたため、企業は未経験採用を活発に行っていたが、外食・小売・旅行業界がコロナの打撃を受け、2020年以降「販売/サービス系」の求人数は大きく減少。未経験採用を中断し、即戦力採用へとシフトする傾向が強まったという。
また、業績の立て直しが急務になったことで、接客経験に加え、ブランドや店舗の宣伝を行うSNSの運用経験や、店舗運営などマネジメントスキルがある人材を採用する企業が増加。その結果、決定年収が上昇したと推測される。
決定年収が微減した10位「金融系専門職」や、11位「専門職(コンサルティングファーム/専門事務所/監査法人)」は、2019年までは即戦力や経験者採用が多い傾向にあったが、2021年は投資や資金運用・経営コンサルティングのニーズが高まったことで人員確保が急務となった。そこで、即戦力採用だけでは追いつかず、次世代育成を見据えてポテンシャル採用を行う企業が増えたため、決定年収がやや減少傾向になったと考えられる。
【職種別】コロナ前後での決定年収上昇率ランキング(2019年と2021年比較)
続いて、細かな職種に分けた職種別での上昇率ランキングを見ると、「技術系(建築/土木)」や「営業系」「技術系(メディカル/化学/食品)」などの大分類に入る職種で大きな伸びが観測できた。対象の全137職種のうち、決定年収が上昇したのは92職種、減少したのは45職種と、約7割の職種で決定年収が増加。決定年収が上昇したうち、金額が10%以上アップしたのは92職種中16職種であった。
上昇率1位は「アセットマネジメント」、海外案件増加に伴い、より複雑な知識が必要になったことが背景
1位にランクインしたのは、「アセットマネジメント」となった。2019年と比較すると、2021年は国内市場が縮小。インパクト投資を目的に、海外不動産案件の投資に参入する動きが増えている。海外案件は融資スキームが国内と異なる上、規模が大きく協業する関係者も多いため、そうした複雑な業務に対応できる即戦力が求められるという。そのため、企業が求める人材のレベルも上がり、決定年収が上昇したと考えられる。また、結果として転職成功者の中で40代以上の割合も高まったことも、決定年収の上昇に関係していると同社は述べている。
2位・3位はメディカル関連の職種がランクイン、コロナ後需要で採用活発化
2位は「営業―医薬品メーカー」で、約30%の上昇となった。3位は医療系専門職の「研究」で、約24%上昇した。
「営業―医薬品メーカー」では、医薬品だけでなく美容医療にかかわる商材や、除菌関連商品などを扱う企業で採用が活発化。このような、コロナ後に需要が高まった商材の販路拡大のため、営業経験が豊富な人材の採用が多く行われたことが、決定年収の上昇に影響したと考えられる。
「研究」では、コロナ診断キットのニーズ増加が影響し、診断薬の研究に関わる求人が増えた。こうした研究を行うバイオベンチャーや診断薬メーカーなどの事業会社は、研究職を募集する企業の中でも給与水準が高く、2021年はこういった企業の採用決定に占める比率が増えたため、決定年収が大きく上昇したと考えられる。
技術系(IT/通信)にあたる4職種がTOP20にランクイン、IT人材の確保やデータ分析のニーズが影響
4位は、IT/通信領域でテクニカルサポートやカスタマーサポートを行う「ヘルプデスク」となった。コロナ後のデジタルシフトにより、IT製品の販売やWebサービスの提供が増加したことに比例して、ヘルプデスクのニーズが高まっている。これらのポジションは外注する企業が多いため、アウトソーシング先の企業が人員確保のために決定年収を引き上げた可能性があるという。
社内のITインフラ整備を担う「ネットワークエンジニア(8位)」と「運用/監視/保守(15位)」は、リモートワークの浸透によりニーズが高まっている。特に、クライアントのデジタル推進をサポートするIT業界では、比較的年収が高い大手企業や一次受け企業が、体制強化のため採用活動を活発化したため、決定年収が上がったと考えられます。
12位は「データサイエンティスト」となった。DXによってあらゆる場面でデータ取得ができるようになり、顧客体験価値の向上やサービスの改善プロセスにおいて、データ解析が必要不可欠になっている。そのため、データ分析を行うデータサイエンティストの市場価値が高まっており、決定年収が引き上がったと考えられる。
特に、コロナ後のDXを大きく進める物流業界では、経験、知見ともにある30~40代の転職決定者の割合が増え、決定年収が大幅に上昇した。
また、上記4職種において、いずれも転職成功者の中で20代が占める割合が2019年に比べて減少していることも、相対的に決定年収が上昇した要因の一つだという。
顧客体験価値向上への注目で、WebデザイナーやクリエイティブディレクターがTOP20にランクイン
7位には「Webデザイナー」、13位には「アートディレクター/クリエイティブディレクター」がランクイン。顧客体験価値が重要視され始めた2020年ごろからは、「クリエイティブ系」職種の中でも特にこの2職種のニーズが高まっている。
コロナをきっかけに、オンラインでの消費活動がより顕著になったため、自社の製品やブランドを選んでもらおうと顧客体験価値の向上を重視する企業が、業界を問わず増えている。優れた顧客体験を設計するため、UXデザインを担う「Webデザイナー」の需要が高まり、人材獲得競争が起こっていることや、給与水準が高いUXデザインができる人材の転職決定の割合が増えたことで、決定年収が上昇したと同社は推測している。
また、企業のマーケティング活動において、デジタル領域に注力する動きが加速している。そのため、Web領域にも強い「アートディレクター/クリエイティブディレクター」のニーズも高まった。特に、Web広告や動画制作、またオンラインイベントなどの企画進行を行う広告・インターネット・映像業界などでは、他社優位性を示すために年収を引き上げてでも優秀な人材を獲得する動きが出てきていることで、決定年収が上がったと考えられる。
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