1. 事件の概要
本件は、原告(以下「X」)が被告(以下「Y社」)との間で、1年ごとの有期雇用契約を締結し、29回にわたって更新・継続してきました。
そして、有期雇用契約は、労働契約法19条に該当し、Y社がXに対し、雇用期間満了をもって雇止め(以下「本件雇止め」)したことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、従前の有期雇用契約が更新によって継続している旨主張しました。
そのうえで、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案です。
(1)当事者
Y社は、広告や屋外広告物などの設計監理、施工等を目的として、大正13年2月11日に設立された株式会社です。C1支社(福岡市博多区)を置いています。
X(昭和39年生)は、都内の4年制大学を卒業した後、昭和63年4月にC1支社に新卒採用で入社しました。
(2)雇用契約
Xは、入社以来、Y社との間で1年ごとの有期雇用契約を29回にわたり更新し、平成25年4月1日以降、最後の更新となった平成30年3月31日まで、毎年契約を更新していました。
(3)Xの業務内容等
Xは、入社して1年後の平成元年にC1支社の計画管理部に異動し、その後、平成30年3月31日までの間、1年ごとの有期雇用契約を更新しながら、計画管理部において、経理業務を中心に警備業法・下請法にかかる業務等に従事していました。
Xが入社してから、平成25年までの間は、毎年4月1日前後に、Y社の管理部長から封筒に入った契約書を渡され、署名押印をするだけで本件雇用契約が更新されていました。
(4)平成20年の就業規則の改訂および平成24年改正法施行後の取り扱いの変更
Y社は、平成20年4月1日、契約社員就業規則14条を改訂し、それまで下記の①から③までしかなかった規定に、新たに④の条項(以下「最長5年ルール」)を設けました。
- ①契約社員の雇用契約の期間は、原則として1年を超えないものとし、雇用契約により定める。ただし、必要がある場合には3年を上限として雇用契約を締結することがある。
- ②業務上の必要があり、かつ契約社員の勤務状況、勤務成績および健康状態から当該業務に支障がないと判断した場合、会社は当該契約社員の同意を得た上で雇用契約書をあらためて締結し、雇用契約を更新することがある。また、その際、労働条件を変更することがある。
- ③契約社員との雇用契約は期間を定めた契約であり、自動更新は行わず、前項による更新がなされない限り雇用契約は雇用契約期間の終了をもって契約期間満了により終了する。
- ④会社は、前第2項により雇用契約を更新するにあたり、更新により雇用契約期間が最初の雇用契約開始から通算して5年を超える場合、原則として雇用契約を更新しない。
(5)平成25年におけるXとY社とのやり取り等
Y社の人事部長D(以下「D」)は、平成25年1月29日にXと面談をし、Xに対し、以下の説明をしました。
- ①5年間を契約更新の上限とすること
- ②転職に関して支援をすること
- ③グループ各社の多くは、東京・関西にて事業所を構えているため、九州での転職支援に関してはH社の転職サービスを会社の費用負担で利用してもらえるようにしたこと
- ④労働契約法が改正され、平成25年4月より、5年を超えて契約が更新された場合は無期契約に転換する仕組みが導入されたので、これにより、これまで支社の契約社員に適用していた契約を見直すことになったこと
- ⑤6年目以降の契約に関しては、次年度から最低3年間の業務実績により更新するかどうかを判断すること
- ⑥毎年期初・期中・期末に、所属部署長・部門長との面談を通じて目標管理サイクルの運用を行うこと
- ⑦グループ内での転職支援は、Z社(グループの総合人材サービス会社)を窓口として、契約満了者の転職支援を行っており、意向があればいつでも登録が可能であること