1. 事件の概要
原告(以下「X」)は、被告(以下「Y社」)の正社員として勤務していました。
上司等から仕事を与えられず、嫌がらせを受けたり、暴言を浴びせられたりしたうえ、精神的に追い込まれて視覚障害を発症し、休職した結果、休職期間満了により自動退職という扱いになりました。
Xは、Y社に対し、雇用契約上の地位確認、ならびに不当に低い評価を受けていた期間中の差額賃金、および上記自動退職後の賃金の支払いを求めるとともに、Y社にはその従業員らによる不法行為を漫然と放置したなどの安全配慮義務違反、不法行為があると主張して、Y社に損害賠償を請求しました。
ここでは、さまざまな争点の中から、Xが休職期間満了時点で復職可能な状況にあったか否かについて解説します。
(1)当事者
Y社は、音響、映像機器の製造・販売•賃貸およびリース、音楽、映像ソフトウェアの制作、販売、賃貸およびリース、カラオケルームおよび飲食店の経営等を目的とする株式会社です。業務用カラオケ機器賃貸•販売業ならびにカラオケルームを運営しています。
Y社の組織は、営業統括本部、メディア事業本部、店舗事業本部、開発本部、制作本部、管理本部等により構成され、各本部はそれぞれ多くの部を抱えています。
Xは、昭和49年生まれの男性で、Y社との間で、平成11年4月1日、総合職従業員として期間の定めのない雇用契約を締結しました(以下「本件雇用契約」)。
(2)Xの所属•勤務状況等
Xは、Y社入社後、管理本部商品購買部、同部財務部債権管理課で勤務しました。
平成14年5月1日、Y社本社管理部内の総務部法務室(以下「法務室」)に配属され、同課にて契約書作成•チェック、営業担当へ契約締結の助言、法令確認、コンプライアンス体制の企画•構築等の法務事務全般、そして株主総会関連業務等を担当しました。
Xの法務室における上司は、法務室長であるA(以下「A室長」)でした。
Xは、平成17年10月から、特販営業部営業二課に異動しました。
そして、平成19年4月1日、DSサービス部管理課に異動しました。
(3)Y社の就業規則の規定
Y社の就業規則には、次の規定があります。
(休職)
-
第16条従業員が各号の1つに該当するときは休職とする。
- (1)業務外の疾病により引続き6か月欠勤したとき
- (2)刑事事件に関し、起訴されたとき
- (3)公の職務に就任した場合で会社が認めたとき
- (4)前各号の他、会社が必要と認めたとき
-
2休職期間は次のとおりとする。
- (1)前項1号の場合、勤続2年以上の者12か月(私傷病の場合)
- …(中略)
- (4)前項4号の場合、会社が必要と認めた期間とする。
(復職)
- 第18条第16条による休職において、休職事由が消滅し通常の勤務に従事できるようになったときは、所定の復職願に必要事項を記入の上、会社に提出し承認を得ること。また、傷病による休職であった場合は医師の診断書を添付するものとする。
- 2前項の場合、会社は原則として休職前の職務に復帰させる。ただし、身体の条件及びその他を考慮し、別の職務に就けることがある。
(休職期間満了による自動退職等)
- 第19条休職期間が満了しても休職事由が消滅しないときは、休職期間の満了日をもつて自動退職とする。
(4)Xの視覚障害発症
Xは、平成20年5月中旬頃、1週間ほどの間、視界のピントが合わなくなり、見るものが2重に映り、眼に見えるものの奥行きがつかめなくなるという症状を発症しました。
数日後にはXの視力は回復したものの、その後、同年8月中旬には、視界の中心が発光して見えなくなり、テレビやパソコンといった発光体がすべて白色になり見えなくなるという視覚障害を生じました(以下「本件視覚障害」)。
D眼科クリニックのD医師(以下「D医師」)は、本件視覚障害の原因に関する意見書(以下「D医師意見書」)を作成したところ、同意見書には、「X氏の両視覚障害(両眼の中心視野障害)は視神経症によるものであるが、その原因としてはミトコンドリア点変異である」との記載がありました。
(5)Xの休職
Xは、上記視覚障害により、平成21年1月7日から1年間の休職を命じられました(以下「本件休職命令」)。
Xに対する休職命令書には、「貴殿から視力障害により業務遂行が困難であるとの報告を受けて、当社としては、就業規則第16条1項4号に基づき貴職に休職を命ずる」との記載がありました。