必ずチェック! ポイント
- 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインとは、企業が行うべき労働時間管理について具体的に示したもの
- 労働時間とは、労働者が企業の指揮命令下に置かれたと「客観的に」判断できる時間を指し、直接の残業指示がなくとも労働時間とされる場合があるため注意が必要
- 企業には、「労働時間の状況を客観的に把握する義務」がある。労働時間を適切に把握する方法は、タイムカード、パソコンの使用時間、企業の現認などの客観的記録を用いる方法を原則とし、やむを得ない場合のみ自己申告制が認められる
関連サイト・資料
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
- 厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します」
- 厚生労働省 通達「基発0329第2号(労働安全衛生法の解釈についての一部改訂について)」内「<労働時間の状況の把握(新安衛法第66条の8の3並びに新安衛則第52条の7の3第1項及び第2項関係)>」
- 島根労働基準監督署「客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました」
3分でチェック! 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
労働基準法では、労働者が人たるに値する生活を営むための労働条件の最低基準として、労働時間、休日、深夜業それぞれに規定を設けています。企業はこの規定にのっとり、適正に労働時間を把握し管理する責務があります。
しかし、労働時間の自己申告制に関するトラブルや、長時間労働や割増賃金の未払いなど、労働時間に関する問題を見聞きすることは少なくありません。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、労働時間や休日、深夜業など、企業が行うべき管理方法や注意点を示したものです。ガイドラインを正しく理解し、企業の義務を果たすために、労働基準法で定められた「労働時間」の定義や、対象となる企業[1]、労働者について知ることが大切です。
注
[1]: ガイドライン上では「使用者」と表記がありますが、本コラムでは「企業」と表現をしています。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置として、下記7項目が掲げられています。
- 始業・終業時刻の確認及び記録
- 始業・終業時刻の確認及び記録を行う原則的な方法
- やむを得ず自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合に必要な措置
- 賃金台帳の適正な調製
- 労働時間の記録に関する書類の保存
- 労働時間を管理する者の職務
- 労働時間等設定改善委員会等の活用
始業・終業時刻の確認・記録は、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録、企業の現認などの客観的な記録を使用することが原則です。
自己申告制はやむを得ない場合のみ認められます。この場合は、労働者が正しく自己申告できるよう十分説明をしたり、必要に応じて実態調査をして労働時間の補正をしたりするなど、ガイドラインで掲げられている項目に沿った厳格な運用が求められます。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
対象企業・対象労働者
労働基準法の労働時間に係る規定が適用される全ての企業が対象です[2]。また、本ガイドラインの対象労働者は、高度プロフェッショナル制度[3]が適用される者を除く、全ての労働者です[4]。
注
[2]: 労働基準法第41条では、①農業・水産業に従事する者、②管理・監督者、機密の事務を取り扱う者、③監視・断続的労働従事者で所轄労働基準監督署長の許可を受けたものは、労働時間や休憩・休日規定の適用を除外しています。
[3]: 高度プロフェッショナル制度とは、⾼度の専門的知識等を有し、⼀定の年収要件を満たす労働者を対象とした、労働時間等の適用を除外する制度です。
[4]: 2019年4月より働き方改革関連法の1つとして労働安全衛生法が改正され、全ての労働者に対して「客観的方法による労働者の労働時間の状況を把握する義務」が定められました(労働安全衛生法第66条の8の3)。
労働時間の考え方
労働時間とは、労働者が企業の指揮命令下に置かれていると客観的に判断できる時間を指します。
<労働時間の具体例>
- 着用が義務となっている制服への着替えなど、企業の指示で働くことに必要な準備行為の時間。また、業務終了後に清掃や、業務に関連性のある後始末などを事業場内において行った時間。
- 企業の指示があれば即座に働かなくてはならず、労働から離れることが保障されていない状態で待機をしている、いわゆる手待時間(イメージとしては、電話番や来客の少ない夜勤のレジで待機しているような労働時間)。
- 業務上、参加が義務となっている研修・教育訓練の受講時間や、企業の指示で行った業務に必要な学習等を行っていた時間(参加が任意であっても、昇給や昇格など労働条件に影響する研修・セミナーは労働時間とされる)。
なお、労働契約や就業規則、労働協約などの定めによって、「労働時間に該当するかどうか」を判断するわけではありません。対象労働者の行為が企業から義務付けられているのか、義務付けられていなくとも余儀なくされていたのか、状況を客観的に見て個別具体的に判断をします。
また、上司から直接の業務指示がなく本人が勝手に時間外労働を行っている場合であっても、実際に業務をしていたのであれば、黙示の指示として労働時間とされるケースもあるため、時間外労働の管理には注意が必要です。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
企業が行うべき措置は、次の7つです。
措置 | 内容 |
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労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻の確認と記録を行います。 |
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始業・終業時刻の確認・記録は、原則として次のいずれかの客観的な方法で行います。
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やむを得ず2.の客観的な方法での把握が難しい場合、自己申告制で始業・終業時刻の確認・記録を行うこともできます。 |
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労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入をします(労働基準法第108条および同法施行規則第54条に基づいて実施)。 賃金台帳に必要な事項を記入していなかったり、故意に虚偽の労働時間数を記入したりすると、30万円以下の罰金に処される可能性があります(同法第120条に基づく)。 |
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労働者名簿、賃金台帳に加えて、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録書類を3年間保存します(労働基準法第109 条に基づく)。 |
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事業場で労務管理を行う部署の責任者は、このガイドラインに関する事項を管理し、問題点の把握と解消を図る責務があります。 |
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事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握して、問題点や解消策の検討を行う責務があります。 |
上表の3.にある自己申告制に関して
自己申告制をとる場合には、次のすべてのポイントに沿って正しい労働時間管理を行います。
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- 説明義務
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- 自己申告制の対象労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うよう十分な説明を行います。
- 労働時間の管理者に対して、自己申告制の適正な運用や、本ガイドラインに従い行うべきことを十分に説明します。
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- 実態調査と補正
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- 自己申告で把握した労働時間が、実際の労働時間とずれがないか、必要に応じて実態調査を実施して労働時間を補正します。とくに、入退場記録やパソコンの使用時間などのデータがある場合は、データと自己申告内容を照らし合わせて著しい剥離がないか調査を行います。
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- 報告内容の実態確認
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- 自己申告した労働時間を超えて、労働者が事業場内にいる理由を報告させる場合は、その報告が適正に行われているか確認をします。
- 休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等のために、労働時間を超えて残っていたと報告されても、実際は企業の指示で働いている(つまり指揮命令下に置かれている)と認められた場合は、労働時間として扱わなければなりません。
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- 労働者の自己申告を阻害する要因の排除
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- 労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設けたり、上限を超える申告を認めなかったりするなど、労働者の労働時間の適正な申告を阻害してはなりません。
- 時間外労働を削減する目的の社内通達や、時間外労働手当の定額払などの措置が、労働者の自己申告を阻害する要因となっていないか確認、改善が求められます。
- 労働基準法の定める法定労働時間、36協定に基づく延長時間数を遵守することは当然のこと、実際には延長時間数を超えて労働しているにもかかわらず、守っているように見せかけて記録する行為が、慣習的に行われていないか注意深く確認します。
監督指導結果の公表(令和4年度)
厚生労働省は、労働時間規定に関する監督指導結果を以下のように公表しました[5]。
注
[5]: 厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します」(詳細結果)より。
労働基準監督署は、時間外・休日労働時間数が1ヵ月80時間を超える事業場や、長時間にわたる過重労働によって労災請求が行われた事業場を対象に、監督指導を実施しています。
令和4年4月から令和5年3月までに監督指導を実施したのは3万3218事業場。そのうち、違法な時間外労働が認められた1万4147事業場(42.6%)に対し、是正・改善指導が行われました。
また、監督指導を実施したうちの6069事業場(18.3%)は、労働時間の適正な把握が不適切であるとして、本記事で紹介している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に沿って、指導が行われています。
この6069事業場に対して行われた指導事項と、それぞれの対象事業場数は次表のとおりです。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」で定められている措置のうち、始業・終業の確認方法を理解していない企業や、労働時間の自己申告ルールに関して理解の浅い企業が目立つ結果となりました。
指導事項 | 対象事業場数 |
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始業・終業時刻の確認・記録ガイドライン | 4223事業場 |
自己申告に関するもの |
自己申告の説明:211事業場 実態調査の実施:1920事業場 適正な申告の阻害要因の排除:136事業場 |
管理者の職務 | 44事業場 |
労働協議組織の活用 | 4事業場 |