グローバル企業との最も大きな違いが人事機能だった
——今井さんがCHROに就任された当時の経緯を教えてください。
私は日立化成側の責任者として、昭和電工側のリーダーである髙橋(現CEO)とともに経営統合のプロジェクトを牽引しました。日本企業のものづくりや研究開発のクオリティは高いのにもかかわらず、グローバル企業の業績に届かない理由を探る中で、「経営が原因ではないか」という仮説が髙橋の中にはありました。そこで、レゾナックの経営、特にCxO体制をどのように整えるかを検討する際に、グローバルのトップ企業をベンチマークしたのです。そこで見えた最も大きな差分が人事であり、CHROの機能でした。
端的にいえば、経営のミッションとして人事変革が求められていたのです。統合にあたって、企業としてのカルチャーを新たに創造する必要性を感じ、そのために人事未経験ながらも私がCHROに就任しました。CEOとなった髙橋からは、「(組織文化を)思いっきり変えるから、何かあったら刺されるのは自分と今井さんだけどいい?」と聞かれて、「大丈夫です」と答えました(笑)。
——今井さんは、もともと組織づくりや人事領域に関心があったのですか。
数年前から、機能性材料メーカーの戦略を考えたときに、究極の戦略は人と文化に尽きると思っていたので、ぜひCHROをやりたいと思いました。
企業価値は、「戦略」「個の力」「企業文化」の3つを掛け算したときに最大化すると考えています。「機能性化学メーカーを目指す」という戦略を実現するためには、トップダウンではなくフロントの1人ひとりが自律的に動けることが大切であり、個の力を最大化することが重要です。そして、そうした個々人が多様な個性を活かし、能力を発揮できる企業文化の醸成が大切だと考えました。
レゾナックとして新しい文化をつくる
——昭和電工と旧日立化成はそれぞれどのような組織文化を持ち、統合にあたってどんな課題があったのでしょうか。
企業文化の違いというより、それぞれの事業部による違いが大きかったと思います。たとえば石油化学事業は、社会の重要インフラであり、けっして事故を起こすことのないよう規律の正しさや慎重さが求められます。一方で、半導体やディスプレイ材料は、短期間で変わるトレンドをいち早くキャッチし、対応していく機敏さが必要です。当然ながら両事業に求められる組織文化は異なります。
そのため、2つの企業の落としどころをつくるのではなく、「1から新たな文化をつくりましょう」という方針になりました。機能性化学メーカーを目指すために望ましい働き方を企業文化として確立する。そのための、従業員の心の拠り所であり、判断基準として、まずはパーパス・バリューを制定しました。