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人事労務事件簿 | #48

不当な出張命令は任意退職を期待するものとして不法行為と判断(大阪地裁 昭和61年11月28日)

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 会社から従業員へのいやがらせ。あわよくば任意退職を引き出そうとする。今回紹介する事案は、ある従業員を病後の復職時にそれまでとはまったく別の業務に就かせ、成果が上がらなくても執拗に続行させたもので、裁判所は不当な業務命令だと断じました。かなり露骨なやり口で当然の結果ではありますが、会社が単なる業務命令だと主張してもまかり通らないことがよく分かる事案です。

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1. 事件の概要

 本件は、原告(以下「X」)が、被告(以下「Y社」)の出張命令に従事した結果、人格的諸利益を害され、精神的苦痛を被ったことにより、慰謝料等を請求した事案です。

(1)当事者等

 Xは、昭和45年5月18日、Y社と雇用契約を締結しました。

 Y社は、関西地区の私立病院です。

(2)Y社の看護師募集

 関西地区の私立病院ではかねてから、概ね看護婦(以下、現在の呼称に合わせて「看護師」)不足の状況でした。

 Y社の病院においても、以前から看護師不足に悩んでおり、病院において働く職員らからも改善を要求されるような状態でした。

 Y社では、以前から理事長らが、看護師募集の広告を出すなどの方策を講じていました。

 その一方で、Y社の病院の職員に命じ、あるいは外部の者に委託するなどして、看護師が比較的余っている九州方面や山陰方面などに赴かせて、直接看護師募集の業務に当たらせていました。

 その募集業務の態様は、主に、就職活動の始まる秋口や卒業前の春先などに、看護学校や看護科のある高等学校を回って希望者の紹介をお願いし、これを募るというやり方でした。

(3)Y社の法人税違反容疑

 Xは、採用当初からY社の病院の会計事務を担当し、昭和47年11月には会計課長となりました。病院の事務の傍ら、Y社系列の大阪杏産株式会社の経理事務も担当していました。

 Y社は、昭和55年1月上旬、法人税法違反の嫌疑で臨検捜索を受け、大阪国税局および大阪地方検察庁の捜査を受けるに至り、同月10日、理事長および医事課長が逮捕される事態となりました。

 Y社の病院および前記会社の会計事務を担当していたXも、同月17日、18日、19日、22日と取り調べを受けました。

 当時、当該捜査を受けたこともあり、Xの仕事は多忙を極め、同月11日以降のXの退出時刻は午後9時を回ることも多く、遅いときには午後11時となることもありました。

(4)Xに対して就労拒否

 Xは、同月26日、反応性うつ病に罹患し、Y社に病気欠勤する旨を申し出ました。

 以後、病院の医師の下で通院加療を受けましたが、同年3月25日、同医師より「就業可能」との診断を受けたため、その旨記載された同日付の診断書を持って出勤しました。

 しかし理事長らは、Xに対し、診断内容を無視して、「とにかく秋まで休め。療養に専念しろ。秋になったら適当なポジションを探しておいてやる」などと言ってXの就労を拒否し、自宅待機を命じました。

 以後も、Xが出勤しようとすると、医事課長らがこれを拒否しました。

 Xは、Y社から賃金も支払われなくなったので、Y社を被申請人として、金員仮払いの仮処分を裁判所に申請したところ、同年6月19日、これを認容する決定がなされ、同年8月13日、Y社もXに対して「就労するように」と通知するに至りました。

(5)労働組合の結成

 Y社の病院では、昭和55年3月23日、労働組合が結成され、Xもその一員としてこれに参加しました。

 また、同年4月9日には、Xの復職を求める要求を第1項目に掲げた要望書が、35名の職員の署名を得たうえで理事長に提出されました。

 理事長は、署名者らにその署名の撤回を働きかけ、少なくとも2名からその旨の申し出を受けました。

(6)Xの業務を変更

 Y社は、Xの就労を認めたものの、会計課長の原職には復帰させませんでした。

 その代わりに福祉事務所や老人福祉施設などを毎日回って、患者を探してくる外回りの仕事を命じました。

 Xは、Y社が自分を会計課長から降格させたうえ、外回りの仕事に就け、他の職員との隔離を図り、さらに前記組合の弱体化を図っているものとして、同年12月4日、地方労働委員会にXの会計課長職の原職復帰を求めて、不当労働行為救済命令の申し立てをしました。

(7)出張命令

 Y社は、昭和56年6月27日以降、Xの懲戒解雇に至るまで、Xに対して本件出張命令を発し、看護師募集業務に従事させました。

(8)出張の内容

 Xが従事していた看護師募集業の態様は、懲戒解雇に至るまでの全日数349日のうち、延べ262日間出張していたものでした。

 募集すべき看護師の賃金等の労働条件に関しては、Xは、理事長らから一切指示を与えられていませんでした。

 博多周辺所在の大学付属病院や国公立病院などを主に訪問して、廊下や待合所で看護師に声をかけ、Y社の病院に来る意思があるかどうかを確かめるという程度のものでした。

 出張費としては、Y社からXに対し、1日宿泊料約2700円および昼食夜食代として各600円、ならびに電話代、交通費等が実費として支払われていました。

 Xは、新幹線を往復に利用し、福岡市中央区所在のビジネスホテルに宿泊していました。

 なお、本件出張命令の発令の仕方に関しては、理事長らは、当初、Xが病院に出勤した当日にすぐその場で即日出張することを命じたこともありました。

 また、あらかじめ出発日を告知している場合でも、その終了日がいつになるかは出発日にならないと判明しない場合もありました。

 また、理事長らは、昭和57年6月9日、Xに対し、当日と翌日の2日間の出張を命じ、Xが従前の交通機関を利用する限り、2日とも看護師募集業務に従事できる時間はわずかに各1時間程度となる出張でも、あえてこれをXに命じました。

 Xは、理事長らに対し、出張から帰るたびに出張の行程、時間、看護師募集に赴いた病院名、その成果などを記載した簡単な報告書を提出していました。

 当該報告書によれば、全く成果の上がっていないことが明らかであるにもかかわらず、理事長らは、Xに対し適切な指示ないし指導をしたことは一度もなく、募集先について助言をすることもありませんでした。

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この記事の著者

坂本 直紀(サカモト ナオキ)

人事コンサルタント、特定社会保険労務士、中小企業診断士、坂本直紀社会保険労務士代表社員。就業規則作成・改訂、賃金制度構築、メンタルヘルス・ハラスメント対策社内研修などを実施し、会社および社員の活力と安心のサポートを理念として、コンサルティングを行う。 ホームページに多数の人事労務管理に関する情報、規定例、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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