データから見えた「優れた経営層の特徴」
次世代経営層の育成を考えるにあたり、前提として「経営層の成長ステップ」を理解しておきましょう。当社の研究機関であり、私が所長を務めるモチベーションエンジニアリング研究所が行った「優れた経営層の特徴」に関する調査結果[1]をご紹介します。なお、調査の概要は、本記事の最後に記載しています。
注
[1]: 株式会社リンクアンドモチベーション「『優れた経営層の特徴』に関する研究結果を公開」
調査の結果、経営層の状態は次の6つに分けられました。状態①が最も評価が低い経営層で、状態⑥が最も評価の高い経営層です。次世代経営層が経営層になるとき、状態①から始まるわけではありません。次世代経営層の段階から優れた経営層とはどのような特徴を持つのかを理解し、そこを目指して経験を積むことが重要だといえます。人事も、次世代経営層を状態⑥の優れた経営層にすべく、育成していくべきでしょう。
- 状態① 高い理想や要望を掲げるだけの経営層
- 下位5%の経営層は、偏差値の高い5項目として「高い要望の提示」「事業に関する法令順守」「社外ネットワークの活用」「社内ルールの遵守」「利益意識の徹底」が挙がっています。総合スコアが低いことを踏まえると、ルールの遵守や利益の創出に対して高い要望を出すものの、自ら事業づくりや組織づくりができていない状態だと考えられます。
- 状態② 部下に厳しさだけを示す経営層
- 下位5~20%の経営層は、偏差値の高い5項目として「労働時間管理の徹底」「社内ルールの遵守」「信賞必罰の徹底」「社外ネットワークの活用」「標準化の推進」が挙がっています。こちらも総合スコアが低いことを踏まえると、ルールの遵守や効率性に関して厳格な姿勢だけが目立っている状態だと考えられます。
- 状態③ 社内外のコミュニケーションにおいてハブとなる経営層
- 下位20~50%の経営層は、偏差値の高い5項目として「社内連携の活用」「オープンな風土づくり」「社外ネットワークの活用」「事業に関する法令順守」「葛藤の解消」が挙がっています。社内外のコミュニケーションの中心となり、不正のない円滑な組織運営を行うことで、事業成果を創出しようとしている点が評価されていると考えられます。
- 状態④ 組織の一体感を醸成し、事業成果を創出する経営層
- 上位20~50%の経営層は、偏差値の高い5項目として「一体感の醸成」「効率的な組織体制」「ビジネスプロセスの改善」「潜在的脅威への対策」「事業課題の把握」が挙がっています。事業成果の創出に向けて、事業課題や潜在的脅威を踏まえたプロセス・組織体制を構築し、組織としての一体感を醸成している点が評価されていると考えられます。
- 状態⑤ 理念と施策を接続できる経営層
- 上位5~20%の経営層は、偏差値の高い5項目として「理念や浸透方法の工夫」「言行の一致」「評価基準の明示」「理念と評価の接続」「環境変化への対応」が挙がっています。理念を掲げるだけでなく、制度やプロセスに接続している点や、環境変化を捉えて組織を柔軟に変化させている点が評価されていると考えられます。
- 状態⑥ 長期的かつ広範な視野で意思決定ができる経営層
- 上位5%の経営層は、偏差値の高い5項目として「潜在的脅威への対策」「理念の浸透方法の工夫」「ナレッジの共有」「リスクに対する予防策」「理念と評価の接続」が挙がっています。理念を掲げるだけでなく、評価や制度に接続している点に加え、長期的かつ広範な視野で脅威やリスクに対応している点が評価されていると考えられます。
「葛藤」を乗り越えることが次世代経営層への近道になる
次世代経営層が優れた経営層になるためには、「さまざまな葛藤を乗り越え、自ら答えをつくり出す経験」を重ねることが大切です。
次ページから、各状態からステップアップするために有効な葛藤をお伝えします。