ステップ3:「短期と長期の葛藤」を乗り越える(状態④→状態⑤→状態⑥)
状態④から状態⑤、状態⑥へとステップアップするためには、次の2点ができるようになる必要があります。
- 理念の評価・制度への接続
- 長期的かつ広範な視野での環境変化やリスクへの対応
このステップでは、企業理念をいかに評価・制度に接続できるかが重要です。そのときに直面する葛藤が、「短期」と「長期」です。「短期的に業績が上がれば、理念がおざなりにされてもよいのか」「長期的に理念の実現につながっていれば、業績が下がってもよいのか」という葛藤に悩まされるようになるでしょう。
このとき経営層に求められるのは、どちらかを選択することではなく、どちらも高いレベルで実現することです。理念と業績を二項対立として捉えるのではなく、高いレベルで両立できる方法を模索していかなければいけません。
この葛藤を、「抽象の梯子(はしご)」という観点で見てみましょう。抽象の梯子とは、物事をさまざまな抽象度で捉える思考法です。抽象の梯子を説明する際には、「3人のレンガ職人」の話がよく用いられます。
3人のレンガ職人に「何をしているのか」と尋ねたら、1人目の職人は「レンガを積んでいる」と、2人目の職人は「教会を建てている」と、3人目の職人は「人々の心を豊かにする場所をつくっている」と答えました。
1人目の職人は「行動」を、2人目の職人は「目的」を、3人目の職人は「意義」を答えています。同じ仕事をしている3人ですが、仕事に対する捉え方が異なっていることが分かります。
「短期」と「長期」の葛藤を抽象の梯子の観点で見てみると、次のことがいえるでしょう。
- 「仕事をして業績を上げる」→ 事象を「行動」「目的」で捉えている。
- 「仕事をして業績を上げ、理念を実現する」→ 事象を「行動」「目的」「意義」で捉えている。
つまり、業績を上げることと理念を実現することは、その事象を「どの抽象度で捉えるか」だけの違いであり、実質は同じことだといえます。繰り返しになりますが、「業績と理念、どちらを優先すべきか」というように、二項対立で捉えるのはナンセンスです。理念をさまざまな指標に接続し、理念と業績向上の同時実現ができるようになれば、次世代経営層として期待される存在になれるでしょう。