今回の担当
今野 敦子(こんの あつこ)
Great Place To Work Institute Japan シニアコンサルタント
名古屋大学大学院経済学研究科(経営管理学)修了。フランス国立ボンゼショセ工科大学MBAコース取得。外資系航空会社、医療系商社の人事部を経て、リクルートマネジメントソリューションズに入社。人事領域において、採用・制度設計・人材育成など一連の業務に携わる。2009年GPTW Japan設立メンバーとして、事業立ち上げに参画。働きがいのある職場を目指す多くの企業などに調査分析、経営層への提言と支援を行う。
働きがいを高める活動=信頼づくり
GTPWでは「働きがいのある会社」を次のように定義しています。
立場、仕事、働く場所に関係なく、あらゆる従業員が会社やリーダーを信頼し、自分の仕事に誇りを持ち、いっしょに働いている人たちと連帯感を持てる会社のこと。
つまり、従業員の働きがいには、会社やリーダー(経営・管理者層)をどれだけ信頼できるかが大きく関わってきます。働きがいを高める活動とは信頼づくり、といっても過言ではないのです。
一方で、従業員の働きがいというのは主観的なもので、どう対応したらよいのか捉えどころのない難しさも感じる、という方も多いのではないでしょうか。人と人の間に生まれる信頼とは目に見えないものであること、長年築き上げた関係性であっても日常業務における些細な言動で損なわれてしまう可能性を秘めていることなどが理由としてあるかもしれません。
GPTWの調査企業の中には、数々の試行錯誤を通じて職場全体の信頼醸成に成功している企業が多くあります。その中から今回は、「経営・管理者層と従業員の関係性」に重きをおいて信頼を高めた3社の取り組みを紹介したいと思います。
日置電機:企業理念に基づく経営方針を発信。経営層が理念を体現する
日置電機は、研究開発・生産ラインなどあらゆる場面で不可欠な「産業のマザーツール」と呼ばれる電気計測器のグローバルメーカーです。同社の岡澤尊宏社長は、経営において最も大事にしているのは「人間性の尊重」と「社会への貢献」を約束した「HIOKI理念」である、と言い切ります。
この大事な理念を組織に浸透させるにあたっては、社長自身、何かを発信する際には常に意識的に理念に立ち戻り、全経営陣もこの理念を掲げるものではなく“体現するもの”と理解し、実践されているそうです。
さらに、世の中の変化が非常に激しくなる中でも、10年先のありたい姿をHIOKIの理念をベースに改めて明示しようということで、長期ビジョンを掲げられました。また、海外を含めたグループ全社員に向けても、「これが私たちの目指す方向です」というキービジュアルをつくって提示し、電気計測のソリューションを通じて、顧客にどのように貢献していくのかを示されています。
このように経営層が経営理念をベースに経営の方針や情報発信を行うことは、組織全体の方向性と価値観を明確に示すうえでとても重要です。そのことで従業員は安心し、同じ方向でまとまっていくことができます。また、経営層が経営理念を体現することは組織全体に対して模範を示すことになり、理念を加速度的に浸透させるだけではなく、従業員も信頼感を持つことができます。