
伊藤 楓(いとう かえで)氏
株式会社SmartHR グロースマーケット事業本部 インサイドセールス本部
大学卒業後、フリーペーパーの広告会社に新卒で入社。一気通貫型の法人営業としてキャリアをスタート。コロナを機に医療業界向けの営業会社に転職し、インバウンド営業とセミナー企画〜登壇などのマーケティング業務に携わる。その後MAの開発販売会社に転職し、新規顧客開拓を専門としたチームにてインサイドセールスとして従事。2024年、SmartHRに入社。現在はインサイドセールスグループにて「SmartHR」の価値発信に携わる。
労働市場からみる「従業員エンゲージメント」の重要性
採用難や若手の早期退職、中間管理職の退職など、深刻な人手不足にあえぐ企業は少なくない。伊藤氏は、減少し続ける労働力人口により、人手不足は今後さらに深刻になると指摘し、「これまでの生産力を維持するためには、1人当たりの生産性向上が必要です」と強調した。
さらに、女性の活躍推進、外国人労働者の増加、テレワークの増加、ミレニアル世代・Z世代が労働人口の中心になっていくなど、働き手・働き方の多様化が進んでいるほか、労働条件の明示事項の追加といった労働関連法令の改正もあったことから、人事は労働環境の変化への対応も迫られている。
一方、働き手・働き方の多様化は、労働者の望みに応えるためだけの理由で促進されているわけではない。中小企業研究所の「製造業販売活動実態調査」によると、2020年代には3年未満で売れなくなる商品が70%を占めており、つくれば売れる時代ではなくなっている現実が見て取れる。
このようにヒット商品のライフサイクルが短くなっている背景には、「技術革新のスピードが速く、製品の技術が陳腐化しやすい」「顧客や市場のニーズの変化が速い」「業界が過当競争に陥っている」といった要因がある。競合との差別化が難しいいまの社会において、変化に対応できる強い組織づくりが鍵となっているのだ。
事実、デトロイトトーマツグループ「働き方改革の実態調査2020」によると、企業が力を入れている組織施策として、「従業員満足度の向上・リテンション」が88%でトップを占めており、「多様な人材の維持獲得、D&I推進」が67%で2位、「採用競争力強化」が50%で3位と続いている。

どの企業でも人材獲得に苦戦しているのもあり、今までにいなかったタイプの価値観を持つ人を採用する企業が増えている。そうした人が増えると、必然的に組織内での価値観の多様化が進む。その結果、従業員の満足度を高めるのが難しくなっているというわけだ。
「これらのデータから、労働力人口の減少による生産性の向上や業務効率化が必須であるとともに、『働きたいと思う環境の整備』や『選ばれる組織づくり』といった人材への投資が求められていることがお分かりいただけたと思います。だからこそ、近年、個人と組織に着目した従業員エンゲージメントの向上に取り組む企業が増えているのです」(伊藤氏)
エンゲージメント向上の打ち手を阻む「人事データの三大疾病」
ここであらためて従業員エンゲージメント向上の効果を見ておこう。従業員エンゲージメントが高まると、従業員の組織に対する信頼が高まり、従業員の能力が最大限に発揮され、従業員が健康にイキイキと働き続けられる。その結果、従業員の定着や生産性の向上、職場の活性化といったメリットを組織は得られるようになる。
従業員エンゲージメントの向上において、注目を集めているのがタレントマネジメントだ。タレントマネジメントとは、人材の能力を最大限に引き出すために、人材を惹きつけ、採用し、定着させ、育成するための人事戦略である。「タレントマネジメントの第1歩として重要なのが、従業員1人ひとりが持つ能力やスキルを人事データとして、正確かつ最新の状態で保有することです」と伊藤氏は語る。
しかし、伊藤氏が日頃接している顧客の中には、「人事データの重要性は分かっているが、すぐに分析できる状態ではない」と悩む担当者が非常に多いという。データはあるけれども、ものによってシステムが「ばらばら」で、どこにあるのか分からない。入力間違いや記載方法が「ぐちゃぐちゃ」で、整理するのに時間がかかる。データの取り方や取得タイミングが「まちまち」で、そのままでは使えない。このような“人事データの三大疾病”にかかっていると、データを集約して整備するところに労力を割かざるを得ず、肝心の施策に手が回らない。

ここで出番なのが、人事・労務・総務・情報システム部といったバックオフィス部門の担当者だ。社員や部署の窓口として企業内の全部署とつながりを持っているバックオフィス部門は、働き方や人材戦略、経営層の意思決定サポートなどに幅広く通じるポジションにいる。だからこそ、円滑な社内外のコミュニケーションを行い、現場の声や経営陣の想いを集約し、客観的な視点で環境改善のアイデアを生み出せるのだと伊藤氏は述べる。
そうはいっても、「現状の業務でそれどころではない」という人も少なくないだろう。いきなり新しい取り組みを始めようとすると、さらに業務量が増えて仕事がひっ迫するのは火を見るより明らかだ。ではどうするのか。
6社の事例で見るSmartHRを活用した業務効率化
それは、まずは従来の業務を効率化して、新しい取り組みのための時間を捻出するのである。次に、SmartHRを導入して業務の効率化を実現した企業事例を紹介していく。
事例1:アイリスオーヤマ(製造業・メーカー/従業員数5000名〜)
毎年、多くの新卒社員を採用する中で、紙による入社手続き対応が困難な状況であった。SmartHRを導入後の2022年には、過去最多の757名の新卒社員を採用。入退社手続きをシステム化したことで、期限内に対応が完了しただけでなく、機微な情報を扱う際のリスク抑制にも効果があった。

伊藤氏によると、SmartHRの導入企業に取ったアンケートにて、じつに50種類以上の書類をSmartHRでペーパーレス化していることが分かったという。
また、従業員はスマートフォンでアンケートに答えるだけで自動的に書類が生成されることから、1000名規模の企業で年末調整にSmartHRを使うと、1971時間から264時間と、業務時間は87%もの削減が想定されると伊藤氏は胸を張った。
事例2:ライオン(製造業・メーカー/従業員数7452名)
従来、年末調整の際には全国にある事業所の従業員から膨大な量の書類を受け取り、10月ごろから年末にかけて処理していた。しかし、SmartHR導入後は、年末調整にかかる工数が約半分に短縮。時間や場所にとらわれない業務環境を構築できた。

事例3:クルーズ(IT・インターネット/従業員数165名)
自社開発したシステムによるバックオフィスのペーパーレス化を実現していたが、システムの保守負担の増加に課題を感じていた。そこでSmartHRを導入。労務から人事評価まで一元管理できるようにしたところ、従業員からの人事評価の問い合わせが月20件から0件に減少。グループ会社は、各社に合った個別の人事評価フォーマットで運用できるようになった。

ここで伊藤氏は、ペーパーレス化の副産物として、情報がデジタル化され、正確かつ最新の人事データを1ヵ所に集約できると述べた。日常的な人事労務業務を行いながら、経営戦略や人事戦略に必要な情報がデジタルデータとして自然に集まってくるのである。このデータは更新され続けるため、確認・分析したいときに、タレントマネジメントにすぐ活用できる。
ここからは、集めた人事データをもとに新しい取り組みを行った企業の事例を見ていこう。
事例4:ツマミナ(飲食/従業員数600〜700名(アルバイト含む))
福岡市内を中心に20店舗超の飲食店を展開しているツマミナ。年間3〜4店舗を新規出展していることから、新入社員がどんどん増えており、現場と本部で社員マスターが同期されない課題を抱えていた。また、店舗の業態もバリエーションが増える中、求める人材像も多様化してきたことから、SmartHRを導入。エンゲージメントサーベイのデータを人員配置や採用に活かしているほか、1on1の面談にも有効に活用している。
事例5:ウェルカム(卸売り・小売り/従業員数1957名)
DEAN & DELUCAなどを展開しているウェルカムでは、SmartHRによる人事労務業務のペーパーレス化で入退社手続きにかかっていた時間を約10分の1に短縮。また、分析レポート機能を活用して、アルバイトの定着状況を分析。各店舗の課題を的確に把握・対処している。

事例6:すかいらーくホールディングス(飲食・宿泊/従業員数5000名〜)
入社時にSmartHRのスマートフォンアプリの利用を促し、プッシュ通知で人財本部からのお知らせに気づきやすい環境を構築。SmartHRの導入後、社内アンケートの回答率が5%から70%へと大幅に上昇した。店舗責任者や従業員が、店舗業務に集中できる環境づくりに寄与している

他にもSmartHRは、その操作性の高さによって、創業143年、工場の平均年齢67歳の老舗グループで導入されているなど、企業の業種・業態、規模を問わず、6万社以上の企業に登録されている。「タレントマネジメントシステムを導入したが、社員が入力してくれない」という悩みはよくあるが、SmartHRはブラウザだけでなくスマートフォンアプリでも活用できることから、メールアドレスを持っていなかったり、メールを見なかったりする従業員へもプッシュ通知を飛ばして入力を促せる。
また、SmartHRのエンゲージメントサーベイ機能では豊富なテンプレートが用意されており、組織改善や人事開発などに活かせる社内アンケートをかんたんに作成できる。このテンプレートは慶應義塾大学の山本勲教授と共同開発しており、「信頼性の高い質問によって従業員の本音をキャッチできる」と好評だという。

ハラスメントサーベイやテレワークサーベイで就労環境の問題を調査する、キャリアサーベイで従業員の意思を把握して人員配置に活用する、退職サーベイで退職理由を調査して組織改善に活かすなど、サーベイの活用シーンは多い。データをもとに施策を実施することで、従業員エンゲージメントの向上に役立つだろう。
「今回紹介した機能は、SmartHRの一部に過ぎません。他にも、労務管理、人事データベース、タレントマネジメントを軸としたさまざま機能があるため、興味のある方はぜひお気軽にお問い合わせください」と語り、伊藤氏はセッションを締めくくった。