育児・介護休業法改正に向けた業務プロセス設計
前回解説したように、2025年10月の育児・介護休業法改正は社員1人ひとりに対する個別対応の強化を求めるものであり、既存のシステムや運用方法では十分に対応できないケースが多いと予想されます。
「選択的措置」や「配慮義務」の実施には、対象者の把握から面談の実施、選択結果の記録、実際の労務管理への反映まで、一貫した情報管理が求められます。そのためのシステム刷新を考える際は、まず業務プロセス全体の設計から着手することが重要です。単にシステムを導入するだけでは、運用の実効性は確保できません。①対象者の把握から始まり、②面談の実施と記録、③選択的措置の提示と選択、④労務管理への反映、そして⑤効果検証と改善というサイクルを構築することが求められます。

まず①対象者の把握と情報収集のプロセスでは、子どもの年齢や家族状況に関する情報を定期的に更新する仕組みが必要です。入社時だけでなく、定期的な情報更新の機会を設け、特に子どもの出生や成長に関する情報を自動的に管理できる仕組みが求められます。同時に、機微な個人情報を扱うことになるため、プライバシーへの配慮も欠かせません。情報へのアクセス権限を適切に設定し、必要な担当者だけが必要な情報にアクセスできる仕組みを構築することが重要です。
次に②面談の実施と記録のプロセスでは、対象となる時期に漏れなく面談を実施できるよう、アラート機能や面談スケジュール管理の仕組みが有効です。また、面談内容を構造化された形で記録し、関係者間で共有できる仕組みも重要です。たとえば、要望の種類や緊急度、対応状況などを一目で把握できるようにし、継続的なフォローを可能にします。
③選択的措置の提示と選択のプロセスでは、部門や職種の特性に応じた選択肢の設定が必要になります。たとえば、製造現場と事務部門では提供できる選択肢が異なる場合もあるでしょう。こうした部門別の設定を管理し、公平性を確保しながらも、現場の実情に合った選択肢を提供できる柔軟なシステムが求められます。また、選択プロセス自体もデジタル化し、申請から承認までのフローをシステム上で完結できるようにすることで、手続きの煩雑さを軽減できます。
④労務管理への反映のプロセスでは、選択された措置が実際の勤務形態にしっかりと反映される仕組みが重要です。たとえば、時差出勤を選択した社員の始業・終業時刻が勤怠システムに正しく反映され、テレワークを選択した社員の勤務場所や勤務状況が適切に管理される、といった連携が必要です。この段階では、柔軟な働き方を前提とした評価制度との連携も重要な課題となります。多様な働き方をしながらも、成果を適切に評価できる仕組みが求められるでしょう。
最後に⑤効果検証と改善のプロセスでは、制度の利用状況や成果に関するデータを収集・分析し、継続的な改善につなげる仕組みが必要です。どの部署でどの措置が多く選択されているか、利用者の満足度や生産性はどうか、といった指標を定期的に把握し、経営層や管理職に共有することで、より効果的な支援策を検討することができます。また、こうしたデータは次世代法の行動計画策定や、統合報告書などでの情報開示にも活用できるものとなります。