Z世代が知りたいのは、組織カルチャーや働くリアルな声
この2〜3年で採用市場の環境は一気に変化した。かつては企業側が人材を選ぶ「買い手市場」が一般的だったが、今では求職者が企業を選ぶ「売り手市場」へと転換。人材不足の要因としてながらく指摘されてきた人口減少と高齢化の影響が、いよいよ現実のものとなっている。noteプロデューサーの徳力氏は、「採用活動の考え方を根本から見直す時期が来ている」と語る。

徳力 基彦(とくりき もとひこ)氏
note株式会社 noteプロデューサー/ブロガー
NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、アジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。代表取締役社長や取締役CMOを歴任。現在はnoteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNS活用のサポートを行っている。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」、「アルファブロガー」等がある。
「私自身、就職氷河期世代なので『募集を出して面接をすれば良い人材が採用できる』と考えがちですが、今の採用市場ではその考え方は通用しなくなっています。採用に課題を感じる企業からは、『採用媒体やエージェントを活用しても母集団形成できない』『知名度はあるのに、応募者とのミスマッチが発生する』などの声も上がっています」(徳力氏)
こうした状況に対応するために、徳力氏は「点」から「線・面」への転換を提案する。従来の採用は、必要なときに募集をかける「点」の活動が中心だった。これに対し、今後は企業の情報を継続的に発信し、求職者が必要なときにアクセスできる「線・面」の取り組みが重要になる。

とくに意識すべきは、情報発信の2つの段階である。1つ目は、転職を検討する前の段階で「この会社は気になる」と思ってもらえるような発信。2つ目は、実際に転職活動中の求職者が企業を模索したとき、必要な情報にすぐにたどり着けるようにすることだ。これらの情報が企業側から発信されていないと、求職者は口コミ掲示板など信頼性の低い情報を参考にせざるを得なくなり、結果的に内定辞退やミスマッチの要因にもなり得る。
とりわけZ世代の就職・転職時は、この傾向が顕著である。

No Companyの調査によると、SNSなどの情報発信によって「企業への入社意向が高まった」と答えたZ世代は約6割にのぼる。
彼らが企業選びで重視しているのは、給与や福利厚生といった基本条件だけではない。「1日の仕事の流れ」「職場の雰囲気」「どんな人が働いているのか」といった、実際の働き方に関する情報への関心だ。徳力氏はこれらを「企業のB面情報」と呼ぶ。企業の価値観やカルチャー、社員のリアルの声など、いわば企業の内側を伝える情報である。

「これまでは、面接の場でB面情報を伝えればよいという認識が一般的でした。しかし、今はネット上でその情報が見つからないと、Z世代はそもそも面接にすら来てくれない可能性があります」(徳力氏)

企業が採用活動において成果を出すためには、求人票などに記載される基本情報(A面情報)だけでなく、働く環境のイメージを伝えるB面情報の発信が不可欠である。求職者が企業に関心を持つきっかけをつくり、実際に選考に進んだ後も不安を解消できるように、適切な情報を届けていく。この一貫した取り組みが、これからの採用活動において求められている。
採用ブランディング成功の秘訣は「B面情報」のストック
「採用ブランディングの重要性は感じているが、何から始めればよいのか分からない」。そう悩む企業は少なくない。徳力氏は、企業の情報発信による採用力の向上には段階的なアプローチが有効だとしたうえで、「一気にすべてを変えるのは難しい。まずは面接で話している内容を外に出すことから始めてみてほしい」と呼びかける。
徳力氏が挙げたのは2つのアプローチだ。1つは、転職を意識する前の潜在層に向けた認知の獲得。もう1つは、選考中の候補者に対して意思決定を支える情報を提供することだ。
前者は「応募数の増加」、後者は「内定承諾率の向上」につながる施策だが、どちらも多くの企業にとっては手薄になりがちな領域でもある。