トライアル期は過ぎ、活用できている企業とそうでない企業の二極化が進む
人事業務を支援する生成AIの機能は、たとえば大量の人事データを解析し、経営判断や人材配置の意思決定を支援する機能や、研修コンテンツの企画・作成を補助する役割、さらに従業員1人ひとりのキャリアやスキルに応じた個別のキャリアパス提案や相談対応などが挙げられます。
このように、生成AIがこれまで属人的に行われていた業務の一部を効率的かつ再現性をもって支援する動きが進んでいます。これらの技術活用により、短期的には業務の大幅な効率化が期待されるとともに、中長期的には企業の人的資本の活用力向上や人材戦略の高度化にも寄与すると考えられます。
人事領域における生成AIの活用は、2024年までに多くの企業で導入や社内トライアルが進められました。Works Human Intelligence(以下、WHI)が実施した「人事労務領域における生成AIの利用実態調査」[1]によると、生成AIを社内で利用できる環境を整え、「社内に公開している」と回答した企業は63.1%に達しました。その一方で、35.0%は公開に至っておらず、実務での活用に移行できていない実態が浮き彫りになっています。

こうした2024年時点での公開状況や運用課題を踏まえ、2025年に入ると生成AIの社内トライアルはいったん終了し、その後の活用推進が継続できている企業とそうでない企業との間で二極化が進んでいると推察できます。
注
[1]: 統合人事システム「COMPANY」のユーザーである国内大手法人65社・68名を対象に、2024年3月14日~4月10日の期間で実施。
人事の半数以上が実務への生成AI導入に前向き
同調査では、人事労務領域における個人業務での活用意向は、「すでに業務で利用している」と「今後利用する予定」を合わせた割合が54.4%と、半数以上が実務への導入に前向きな姿勢を示しています。

具体的な利用シーンとしては、「文章の校正」(76.2%)が最も多く、「従業員への案内や通知メールの作成」(52.4%)、「プログラミングや表計算ソフトにおけるコードの読み取り」(42.9%)が続いており、まずは日常業務の効率化に直結する領域から導入が進められていることがうかがえました。

一方で、2025年に入り、先進的な企業では生成AIを戦略的業務に活用する動きが本格化しています。たとえば、新卒採用においてAIを活用し、応募者に適性のある職種を提案する施策を導入する企業が出てきています。また、「離職リスクの高い従業員グループを特定し、その要因を分析したうえで、複数の対策案を自律的に起案する」といった、複雑な指示を実行可能なAIエージェントも登場しています。
このように、生成AIは単なる業務支援ツールにとどまらず、人事戦略の高度化や人的資本マネジメントの質的向上に向けた重要なツールとして、その役割を拡大しているといえるでしょう。