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2025年7月29日(火)@オンライン

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未来へ駆動する「戦略人事」のヒント:AI時代の人・組織・制度を考える | シニア人材活用

シニア人材活用の処方箋——半世紀で長期化した“現役期間” 「再雇用制度の機能不全」を回避する鍵は

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 少子高齢化に伴い、企業にとっての重要性が右肩上がりの「シニア人材活用」。その重要性が昨今どれだけ高まっているかを、人口動態・現役期間長期化の推移、再雇用人事制度の変遷などの切り口から振り返ります。そのうえで、今後のシニア人材活用、中でも再雇用人事制度における検討の方向性と、制度を機能させるためのポイントを解説します。

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55年ぶり、2つの万博を振り返る

 大阪で55年ぶりに開催され、10月に閉幕を迎えた日本国際博覧会(以下、大阪万博)。世界の最先端技術を結集した空飛ぶクルマやiPS心臓・iPS心筋シートなどが紹介され、注目を集めました。前回1970年開催の大阪万博を振り返ると、当時最先端技術であった(スマートフォンの原型である)ワイヤレスホン、温水洗浄便座トイレなどは、後に現代を生きる人々にとって欠かせないものになりました。一方、人間洗濯機や海底都市構想は、(少なくとも現時点では)“市民権を得ている”とはいえないでしょう。

 1970年当時と比べて総人口も変わっていますが、特筆すべきはその内訳です(次表)。少子高齢化の影響で、年少人口は24%から11%に半減する一方、老年人口が7%から29%と4倍以上になり、平均年齢は31.5歳から49.8歳に18.3歳上昇しました。1970年当時、定年は55歳でしたが、このような状況において、現役期間が長期化するのは必至といえるでしょう。

日本における人口推移[1] ※()内の数値は構成比

分類 項目 1970年 2025年
全体 総人口 1億372万人 1億2340万人
平均年齢 31.5歳 49.8歳
内訳 老年(65歳以上)人口 733万人(7%) 3620万人(29%)
生産年齢(15~64歳)人口 7157万人(69%) 7355万人(60%)
年少(0~14歳)人口 2482万人(24%) 1366万人(11%)

[1]: 総務省統計局『人口推計』、国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集』、国際連合『World Population Prospects』を参考にEYにて作成。

今では70歳定年が“努力義務” 高まるシニア人材活用の機運

 ここからは、現役期間の変遷を踏まえ、シニア人材活用の機運がどのように変わってきているかを「人事制度改定」という切り口から紹介してまいります。

 前述のとおり、戦後から1980年代までは、55歳定年が当たり前でした。しかし、高年齢者雇用安定法の改正により、20世紀末には60歳、2010年代には65歳が義務化。2021年には70歳が努力義務化しました。これまでの努力義務化から義務化までの期間が、おおむね“干支一周”であることを考えると、2030年代前半には70歳定年が義務化し、このペースで進むと、2050年代には75歳定年の義務化が視野に入ってくるでしょう。

[画像クリックで拡大表示]

 私もこれまでさまざまな企業の人事制度改定に携わってきましたが、2010年代以前と2020年以降では明らかにシニア人材の重要性、すなわち定年後再雇用社員の重要性が高まってきていることを実感しています。

 2010年代までは、正社員の人事制度改定を行った後に、役員人事制度改定や海外を含めたグローバル人事制度改定に展開されることはあっても、定年後再雇用人事制度を合わせて見直す、ということはほとんどありませんでした。しかし、2020年代以降は様相が変わり、正社員人事制度を改定する際には、定年後再雇用人事制度も合わせて改定するケースが明らかに増えてきています。

 理由は以下の3つに集約できるでしょう。

  • 企業が雇用している社員に占める定年後再雇用社員の割合が右肩上がり。人数構成比率と人件費比率、双方の観点から従来と比べて明らかに“無視できない”状態となってきている
  • 少子化に伴い、若手の売り手市場化が加速しているため、十分な確保が困難。加えて、中堅やベテランを中途採用で獲得しても、企業文化にフィットするとは限らないため、自社をよく知るシニア人材の活躍が“頼みの綱”となっている
  • パートタイム・有期雇用労働法の施行に伴い、“同一労働同一賃金” への対応が必要に。正社員人事制度と定年後再雇用人事制度は、それぞれ個別に検討するものではなく、相互に整合性を取りながら改定することが必要となってきている

再雇用人事制度の変遷と展望——変化を読み解く2つのポイント

 ここで、定年後再雇用人事制度の変遷にも軽く触れようと思います。

 65歳までの雇用確保が求められるようになったのは、21世紀に入ってからです。当時の企業は、今よりずっと後ろ向きに受け止めていたというのが肌感覚です。というのも、定年前でも「役職定年」という考え方があったくらい、新陳代謝の必要性を感じていた企業が大半です。そのような状況で、“追加的に”60歳以上の社員も雇用しないといけない、ということを重荷に感じた企業が多かったことは容易に想像がつきます。

 これは、再雇用社員を処遇する人事制度の設計方針にも投影されていました。給料は定年前と比べて大幅ダウン。評価も行わないので、賞与や昇降格もない、という制度が多数見られました。このあたりの機運が明確に変わってきたのが、上述の2020年以降。キーワードは、「正社員化」と「多様化」です。

 この2つのキーワードを用いて今後を展望してみようと思います。

 「正社員化」には2つの意味があります。1つ目は「“実質的に”正社員のように取り扱う」という意味、そしてもう1つは「“実際に”正社員として取り扱う」という意味です。前者の場合は、再雇用人事制度の改定により対応することになり、後者の場合は、定年延長や定年廃止により対応することになります。

 厚生労働省の令和5年「高年齢者雇用状況等報告」によると、定年を「60歳」にしている企業が全体の66%、「65歳」としている企業が全体の24%。4社に1社がすでに定年を65歳にしているのか、というのが正直な感想です。定年を60歳にしている企業でさえ、多くの企業で役職定年制度を継続している現状を考えると、定年を「60歳より上」とすることをためらう企業は多いのではないでしょうか。そうなると、再雇用人事制度の中で「実質正社員」のように取り扱えるコースを用意する、というのが現実的な解になってきます。

 もう1つのポイントである「多様化」についても言及します。定年を超えるくらいの年齢になると、意欲や体力の個人差が若い頃に比べて大きくなってきます。よって、「実質正社員化」といっても再雇用社員全員を正社員同様に処遇するというのは、会社にとってもご本人にとっても必ずしも現実的ではないでしょう。したがって、「実質正社員」のようにバリバリ働くコースから、ペースを落として働くコースまで、再雇用社員の多様な価値観に寄り添うコース設定も必要となってきます。

次のページ
再雇用人事制度をうまく機能させる3つの観点とは

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この記事の著者

川本 文人(カワモト フミヒト)

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・コンサルティング アソシエートパートナー

外資系コンサルティングファーム2社を経て現職。国内外人事制度設計、リーダーシップ開発、ビジネススキル強化など、幅広いプロジェクトに従事。複数のワイン関連資格を有し、週末は東京の大手ワインスク...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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