生成AIをめぐる議論では、「何時間削減できたか」「どこを自動化できるか」といった効率化の効果が強調されがちです。しかし、人事領域における本質的なインパクトは、単なる省力化ではありません。むしろ、「誰が、どんな情報をもとに判断するのか」という、企業の意思決定の型そのものを見直す契機になる点にあります。生成AIを“使っている”企業は急速に増えていますが、「業務の質が大きく変わった」と実感している組織は多くありません。前編となる本稿では、このギャップが生まれる背景を整理し、後編では組織変革につなげる具体策をご紹介します。
人事の現場で起きている「利用の広がり」と「変革の停滞」
近年、人事領域における生成AI活用は一気に進みました。当社Works Human Intelligenceの調査[1]では、「すでに業務で利用している」と答えた人事担当者は75.0%。本連載の第1回で紹介した2024年調査結果の33.8%と比較すると、わずか1年弱で倍増しており、生成AIはすでに“人事の日常業務の一部”になりつつあります。
注
[1]: Works Human Intelligence 「人事業務での生成AI利用に関するアンケート」(2025)
実際、利用が進んでいるのは次のような場面です。
- 従業員への案内メール・通知文のたたき台作成(47人)
- 会議前の壁打ちやアイデア整理(40人)
- 人事施策・研修・セミナー資料のドラフト作成(24人)
いずれも、担当者が“ゼロから考える手間”を削減できる領域です。初稿作成、説明文のリライト、構成案の整理……。生成AIと相性の良い業務は多くの担当者にとって「業務が楽になった」という確かな実感をもたらしています。
しかし、その一方で、こうした活用は依然として“個人レベルの改善”にとどまっているのが実態です。
「確かに便利にはなった。しかし、仕事の進め方そのものは変わっていない」「使ってはいるが、組織の変革にはつながっていない」という状況に、今まさに多くの現場が直面しています。
なぜ組織変革は進まないのか?
では、どうして個人利用は広がっているのに組織変革は進まないのでしょうか。
その根本的な要因は、現在の活用が“個人の手元作業の効率化”に閉じてしまっている点にあります。 つまり、「判断に必要な情報をどう整理するか」「業務プロセス全体をどう見直すか」といった “組織の仕組みそのもの” には、まだ十分に踏み込めていないのです。
生成AIは「担当者の作業を軽くする」ことには成功したものの、業務構造や意思決定プロセスは従来のまま。結果として、「利用は広がるのに、変革は停滞する」という状態が生まれています。
では、この停滞はどこで生まれるのでしょうか。
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袋瀬 淳(フクロセ ジュン)
株式会社Works Human Intelligence/WHI総研
大手不動産会社にて企業の寮や社宅の運用支援を通じた業務改革に従事後、Works Human Intelligence入社。保守コンサルタントを経て、多くの企業を見てきた経験を活かし...
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