いま多くの企業が立ち止まっているのは「Lv.1→Lv.2の谷」
前編では、多くの企業が直面している「個人利用(Lv.1)」から「組織活用(Lv.2)」への壁について、その構造的要因を解説しました。生成AI活用の本質は、単なる時短ではなく「判断プロセスの再設計」にあります。
後編となる本稿では、人事部門がボトルネック(4つの壁)を突破し、組織変革を実現するための「5つの実践ステップ」を具体的に紐解いていきます。
現場では、Lv.1「個人利用」は急速に広がっています。しかし、Lv.2「自社データとの連携(組織利用)」に進もうとした途端、多くのプロジェクトが停滞します。
なぜ、「データを入れればいいだけ」なのに進まないのか。現場の声を紐解くと、そこには3つの「見えない足かせ」が存在していることが分かります。
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- 「守りの壁」(情シス連携・セキュリティ)
- 人事情報は機密性が高いため、慎重にならざるを得ません。しかし、情シス部門との連携不足から「データをどこまで入れてよいか」の線引きができず、リスクを恐れて「とりあえず禁止」や「様子見」で止まってしまうケースです。
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- 「時間の壁」(多忙・試行錯誤のコスト)
- 人事は日々の定型業務に忙殺されています。プロンプトを練り込んだり、業務フローを棚卸ししたりする「余白」がありません。「1度試したが期待通りではなかった」という失敗体験が、再挑戦の意欲を削いでいる側面もあります。
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- 「組織の壁」(情報の囲い込み)
- 有益なナレッジが個人のPCや部門内に閉じられ(サイロ化)、AIに学習させるデータが集まらない課題です。人事だけで旗を振っても、現場のメリットが見えなければ協力は得られません。
これらの壁がある限り、いくら高性能なAIを入れても「データが入らない=自社特有の回答が出せない」状態から抜け出せません。
では、具体的にどうすればこの状況を突破できるのでしょうか。ポイントは「完璧な準備を待たず、まず動き始めること」です。
次からは、人事主導で生成AIの組織活用を進めるためのステップを順を追って見ていきます。
ステップ1:完璧を目指さず「60点のデータ」から始める
よくある誤解は、「きちんとしたデータ基盤が整うまでAI連携はできない」という考え方です。これではプロジェクトが動きません。現実には、手元にある情報から始めるだけでも十分です。
- 社内規程
- 業務マニュアル
- 過去のFAQや問い合わせ履歴
たとえば、これらをAIに参照させるだけで、次のような成果が得られます。
- よくある質問への回答が迅速化する
- 規程の確認や解説がスムーズになる
ポイントは、完璧を目指さず、明日から使える“60点のデータ”で始めることです。
生成AIは、多少の表記ゆれや不完全な文章であっても、文脈から意図をくみ取る能力に長けています。そのため、人間が見て理解できるレベルの文書(60点のデータ)であれば、十分に実用的な回答を生成できるのです。

