人事の過半数がAIを検討中・導入済み 一方で課題も
jinjerは「『ひと』の可能性のすべてが見える世界へ」というVisionを掲げ、統合型人事システム「ジンジャー」を提供している企業だ。今年でサービス提供から10周年を迎え、導入社数は2万社にのぼる。本セッションでは同社CEOの冨永氏が、人事のAI活用に求められる考え方について紹介した。

冨永 健(とみなが けん)氏
jinjer株式会社 代表取締役社長 CEO
シスコシステムズで大手企業向け営業と組織マネジメントを担った後、アマゾンウェブサービスで営業責任者として日本のクラウドマイグレーションの加速に貢献。その後、株式会社Zendeskの社長としてカスタマーエクスペリエンス基盤の普及とオペレーション改善を主導し、国内市場でのプレゼンス拡大に寄与した。現在は、jinjerの代表取締役社長 CEOとして、これまで培ったグローバルビジネスの経験を基盤に、戦略策定、M&A・組織再編、業務オペレーションの効率化に取り組み、jinjerの持続的成長をリードしている。
jinjerの顧客を対象にした調査によると、人事の半数以上がAIを検討中または導入済みだ。人事領域においてもAI活用の機運が高まっていることが分かる。
そんな中、冨永氏は人事のAI活用の「目的」に注目。特に人事担当者と経営者で期待する効果が異なり、主に2つの狙いで導入されると説明した。
「AIエージェントの導入にあたって、多くの人事担当者はミスや抜け漏れ防止、業務工数の削減・効率化を期待しています。一方で、経営者は適切な配置シミュレーションや次世代リーダーの抽出といった人的資本の価値最大化のための活用を考えているようです」(冨永氏)
ただし、2つの導入目的は「対立するわけではない」と冨永氏。人事×AIには2つのアプローチがあるという前提を整理したうえで、人事と経営が話し合うと議論が進むのではないかと提言した。
AIで何でもできる? 人事の“あるある”落とし穴
人事と経営で目的を共有し、無事にAIを導入できても、活用にあたって問題が起きることもある。次に冨永氏は、AIを人事業務にいざ活用したときに起きる“あるある”のケースを紹介した。
1つ目は、経営者が無邪気に「過去の評価データや異動履歴をもとに次世代リーダー候補の人材をリストアップして」と人事に依頼するというもの。これを受けて人事は、過去のデータが本当に正しいのか、偏りがないのか、上司によって基準が異なる評価が含まれていないか……といったデータの正当性を確認する多数の作業が必要になる。AIがたしかな精度の結果を出せるようにするために、データの整備に大変な作業が発生するのだ。
2つ目は、「勤怠や給与、評価、1on1の記録など、社員のデータをすべて学習させれば、AIが最適な判断をしてくれる」という期待感の危うさだ。これに対して冨永氏は、個人情報の機微性や権限管理の重要性を指摘する。
「人に関するデータはたくさんの機微情報を含んでいます。誰に質問されているかにかかわらずAIは回答を返すので、従業員の住所や家族の話など何もかもを学習させると、公開してはいけない人にまで教えてしまうというリスクがあります」(冨永氏)
では、こういった問題が起きてしまう背景には何があるのか。
人事のAI活用を阻む根本的な課題とは
冨永氏は、これらの課題の根本に「人事データの分断」があると説明。人事データがさまざまなシステムに散らばって蓄積されていることこそが、AI導入の最大の課題だと指摘した。
多くの企業では、勤怠管理システムや給与システム、タレントマネジメントやエンゲージメントサーベイのツールなど、多数の人事関連システムが導入されている。「勤怠のデータと評価のデータを組み合わせてAIに学習させたい」といった場合に、システムがバラバラだとデータの収集に苦労することになる。
また、分断された一部のデータだけを読み込ませると、AIが間違った答えを返すリスクもある。AIは「分からない」とは答えないため、もっともらしい誤答を出してしまうのだ。
たとえば、AIが過去の人事評価とスキル情報だけをもとに優秀な人材と判断し、「昇格候補」として挙げた人材が、実は最近の1on1や勤怠データを見ると、モチベーションが低く体調も優れない、という事実が隠れている場合だ。
冨永氏は、「AIのツール自体の性能はどれも大きな差はなく、同じように進化していく。それよりも自社のデータが整備されているかどうかのほうが、AIの品質を大きく左右するポイント」だと強調する。
人事×AI成功の鍵!データ基盤の3条件とは
では、人事のAI活用の基盤となるデータは、どのように整えればよいのか。冨永氏は、3つの条件が必要だと説明した。
1つ目は、ID統合。社員番号などで個人に紐づく情報が1つのIDで管理されていることが重要だ。もちろん、姓名の表記も間違いや揺れがないように統一されていなければならない。
2つ目に、時系列の網羅性。現時点で「この人は課長だ」と把握できていても、それが過去にさかのぼっていくと曖昧になることが多々ある。従業員が、どの時点でどういった役職で、どんな仕事をしていたのか、時系列で追えることがポイントだ。それに対応して人事評価や労務、勤怠の履歴も管理されている必要がある。
3つ目に標準化。データを共通言語にする、つまり、単位やフォーマットの異なるデータを1つの基準に統一することで、AIが迷わずに解釈する形に整えるのだ。
「これらを実現することで、人事データベースが意思決定インフラになっていく」と冨永氏は強調する。
というのも、AIは大量のデータを分析して新しい示唆を出すことが得意だ。評価や勤怠のデータから次世代の優秀な人材を導き出すなど、高度なアナリティクスを実現できる。これは、先述の経営者が期待する効果、人的資本の価値最大化につながる。
さらにもう1つAIが得意なこととして、対話をしながら物事を進めること(自動化)がある。たとえば、従業員が引っ越しをしたときに人事が介在しなくても、AIボットに話しかけるだけで申請の手続きを進められるといった活用につながる。これはまさに人事担当者がAI導入で実現したい、業務工数の削減・効率化の部分だ。
ただし、AIがこうした真価を発揮するためには、すべての人事データが統合・整備されていることが大前提となる。
AI導入の“成果”を導く統合型人事データベース
これを可能にするのが、統合型人事データベースを提供する「ジンジャー」だ。
jinjerは、人事や労務、勤怠、給与、ワークフローなど多くの人事向けのツール群を提供してきた。そして、それを1つのデータベースであるジンジャーで提供し続けていることが最大の強みだ。
同サービスはタレントマネジメント領域もカバーしており、人事評価やサーベイ、人事データ分析まで1つのデータベース上で可能になっている。
「この単一の統合型データベースは、AIととても相性が良い。“AI-Ready”なデータ基盤であるジンジャーでデータを管理することで、将来的にAIを使って新しい示唆を出したり自動化を進めたりといった便益をスムーズに受けられます」(冨永氏)
これに加えて、同社は今後多くのAI機能をリリースする予定だ。3月には、人事データ×AIの新機能を実装したとの発表もあった。[1]
注
[1]: jinjer「人的資本経営の実践に向けて、 jinjerが人事データ×AIの新機能を実装」
たとえば、定型業務の自動化エージェント機能として、「契約更新や期限管理」「勤怠・給与の異常値チェック」などの機能が提供される予定だ。また、「離職リスクの検知」「スキル・エンゲージメントの可視化」といった経営に示唆を与える機能も予定されている。
「AIを単なる効率化の道具にするか、人的資本経営の強力なパートナーにするかはデータ基盤次第です。今日からジンジャーで正しいデータを蓄積していただければと思います」(冨永氏)

