なぜITエンジニア採用は9割がミスマッチになるのか
本セッションで進行役を務めたのは、paiza 執行役員の冨松大介氏である。paizaはITエンジニア向けサービスとして、学習・就活・転職を支援する総合型プラットフォーム「paiza」を運営している。登録会員数は2026年1月時点で94万人と、多くの支持を集めていることが分かる。
冨松 大介(とみまつ だいすけ)氏
paiza株式会社 執行役員 学習キャリア事業企画部長 兼 経営企画部長
2007年に富士通のグループ会社へ入社、官公庁向けシステムの設計・開発・運用支援に従事。2010年に同社を退職後、中堅会計事務所、教育系ベンチャーを経て、2016年にアイペット損害保険株式会社に人事として入社、人材開発分野から、採用・制度設計・総務へと業務の幅を広げる。また、その間、同社の持株会社化、グループ会社のPMI等を人事総務の責任者として担当。2021年4月に同社執行役員およびアイペットホールディングス株式会社経営企画管理部長に就任。2022年にHRTech大手であるビズリーチへ転職。2023年に当社へ参画。CFOとして、同社のコーポレート部門を統括。2026年3月現職に就任。新卒採用支援、学習支援領域部門を統括。京都大学工学部卒。
一方、ゲストとして登壇したのは、みんなの銀行 エントリーサクセス部で人事領域を統括する永峰義之氏。みんなの銀行は国内初のデジタルバンクであり、店舗を持たず、スマートフォンアプリで金融サービスを提供している。社員の7割が中途採用で構成されており、その多くをITエンジニアが占めている。
永峰 義之(ながみね よしゆき)氏
株式会社みんなの銀行 エンプロイーサクセス部 エンプロイーエクスペリエンスグループ グループ長
2006年、某銀行に新卒入社。法人営業、採用・人財育成、経営計画策定等に従事。その他、スタートアップ投資やLP出資にも携わり、金融と事業領域を幅広く経験。2020年に2人目の人事としてみんなの銀行プロジェクトに参画。現在は、採用、組織開発、人財育成、人事評価運用、人財ポートフォリオ戦略を統括。これまでの経験を活かし、未来を見据えた人財戦略の推進と、堅固な組織基盤の確立に注力。社員一人ひとりが最大限に活躍できる環境をつくるべく、日々邁進中。
セッションの冒頭では、「採用のミスマッチ」がテーマに掲げられた。永峰氏は「永遠のテーマというか、採用に関わる多くの方が直面する課題だと思います」と語り、強い関心を示した。
冨松氏は現場との認識を共有するため、新卒採用・中途採用における「採用ミスマッチ」実態調査の結果を紹介した。この調査は、paizaのサービスを利用する企業を対象に実施され、61社から有効回答を得ている。その結果、7割以上の企業が採用ミスマッチを経験しており、とりわけ中途採用での発生が半数以上を占めた。中でもIT・技術系職種の採用にミスマッチを感じている企業は約9割に達している。
「ミスマッチの主な要因は、人物像の不明確さと応募者との相互理解不足です。現時点で特効薬はありませんが、生成AIを活用した採用活動が広がることで、人事評価の公平化や工数削減につながるのではないかと期待しています」(冨松氏)
冨松氏は、調査から見えたポイントを3点に整理する。
第1に、「100人の壁」とミスマッチの相関である。従業員数100名以上の企業ではミスマッチ発生率が80%以上と高い数値を示した。即戦力を求めるあまり、企業と応募者との間で業務内容のすり合わせが不十分になっている可能性がうかがえる。
第2に、IT人材採用における構造的課題だ。IT・技術系職種のミスマッチ発生率は約91%。人事担当者の業務理解が追いつかず、明確な基準を策定できないまま採用活動が進められている実態がある。
第3に、定義不足が根本要因である点だ。人物像の不明確さや応募者との相互理解不足は、将来を見据えて業務拡大を担うペルソナが明文化されていないことに起因している。
さらに、各社がミスマッチ防止のために実施している施策にも着目した。上位には、カジュアル面談やオファー面談の実施、活躍できる人材(ペルソナ)の定義、リファラル採用の活用などが挙がった。
調査結果について永峰氏は次のように述べた。
「率直に、結果どおりだという印象です。ただ、『ミスマッチが起きていない』と回答した企業が27%もあったのは驚きでしたが。当社もまだ若い会社ですが、数年前まではミスマッチが多く、その解消に向けて取り組みを進めてきました」(永峰氏)
また、今回の実態調査ではミスマッチ対策として、生成AIを導入しているかも聞いている。結果を見ると、導入企業は1割に満たないことが判明した。導入した場合に期待する効果としては「スキルや履歴書評価の客観化」が最も多く、次いで「書類選考精度の向上」など、書類選考の効率化を期待する声が多かった。
生成AIの活用と候補者体験の向上を推進
続いて、アンケート結果をもとに両氏の議論が展開された。まず永峰氏から、みんなの銀行における生成AI活用事例が紹介された。
「当行では生成AIを採用シーンで活用しています。目的は、業務効率化、評価の属人化防止、候補者体験の向上です。具体的な事例としては2つあります。1つは、候補者情報と採用ペルソナを掛け合わせた書類選考の精度向上。もう1つは、候補者情報を活用したスカウト文面のカスタマイズです。これにより、返信率の向上を実現しています」(永峰氏)
書類選考は、どうしても担当者によって評価にばらつきが生じやすい。基準の揺れを抑え公平性を確保するために、生成AIでデータを蓄積・分析し精度を高めていく意義は大きいと冨松氏は指摘する。スカウトも人事の腕の見せどころではあるが、同時に省力化や効率化も求められる領域であり、AI活用への期待は高い。
みんなの銀行では、採用にとどまらず社内全体で生成AI活用を推進している。具体的には、プロンプトアイデアコンテストを継続的に開催し、優れたプロンプトを共有するなど、日常業務への定着を図っているという。
次のテーマは「入社後の『話が違う』をなくすための選考段階での工夫」である。まず冨松氏が、paiza(サービス)を活用した自社のITエンジニア採用の要諦を説明した。
「当社は技術力を可視化する仕組みを持っており、SランクからEランクまでの6段階でITエンジニアのスキルレベルを定義しています。その技術力と経験をもとに開発部門とすり合わせを行い、ペルソナを設計して求人票に落とし込みます。また、条件に合致する人材をデータベースから検索し、開発リーダーが直接スカウトすることも可能です」(冨松氏)
その結果、paiza経由の1次面接通過率は50%以上と、他ルートを10ポイント以上上回っている。
「『paizaランク』では、各ランクに応じて期待できる実務レベルやプログラミングスキルのレベル感を客観的に測定します。また、約3500万回に及ぶ受験実績をもとに、信頼性の高いデータベースを構築し、精度の高い技術マッチングを実現しています」(冨松氏)
このスキルチェックでは、実務に即した難易度の課題を設定し、提出されたコードを10以上の観点から検証している。こうしたノウハウこそが、paizaならではの強みだ。
みんなの銀行でもこのサービスを活用しており、ITエンジニアスキルの見極めに大きな成果を上げている。さらに、候補者体験の向上にも注力していると永峰氏は説明する。
「まずは、ペルソナに基づく採用要件の明確化です。次に、アトラクトを軸とした選考フローの再設計。3つ目は、早期回答を意識した即断即決できる体制の構築。4つ目が、現場の評価コメントを添えた想いが伝わるオファーレターの作成や、オファー面談で活用する資料の充実です。さらに5つ目が、入社後のオンボーディングやリファラル採用の強化。これらに取り組み、ミスマッチ解消を図っています」(永峰氏)
生成AI時代の採用新基準とは
最後のテーマは、「これからのITエンジニア組織に求められる『採用の新基準』」である。冨松氏は永峰氏に対し、みんなの銀行がエモーションを重視する取り組みに至った背景を尋ねた。
「数年前にミスマッチが発生した際、人事主導の採用スタンスを見直しました。その際に『スクラム採用』へ切り替えたことが大きな転換点でした」(永峰氏)
スクラム採用とは、採用活動を経営陣や人事部門だけに閉じるのではなく、現場社員を巻き込み一体となった形で進めることで、最大の成果を創出していく採用手法である。
具体的には、どう展開されているのか。永峰氏がポイントを次のように整理した。
「まず取り組みとしては、採用活動の可視化を徹底し、感覚的な判断ではなくデータに基づく採用活動を推進することを決めました。次にポジションごとの採用定例ミーティングを実施し、採用状況の共有と改善策の検討を継続的に行っています。その結果、マインドチェンジが起きました。人事マターから自分たちの採用への変革が進んでおり、自分たちの仲間は自分たちで集める組織になってきました。これを信じて継続することが重要だと思っています」(永峰氏)
このように、みんなの銀行はカルチャー変革を軸とする採用を展開しているが、paizaは応募者が有する技術力の可視化を重視するアプローチを採っている。生成AIが進化し、プログラム生成も可能になったいま、プログラミングスキルは不要になるのか——永峰氏がこの問いを冨松氏に投げかけたところ、冨松氏は次のように答えた。
「AIの活用によってコーディング量は大きく増えるでしょう。しかし、最終的に世に出すためにはチェックをしないといけません。その全体の生産性はスループットによって決まってきます。むしろ生成AIの登場により、仕様を理解し、確かなプログラミングスキルを持って検証できる人材の重要性がより高まってきています。チェックできる人材が増えれば、リリース数も増やせます。現場からも同様の声が届いています」(冨松氏)
生成AIによって生産性は向上するが、顧客に届ける品質を担保する最終責任は人が担う。ITエンジニアに求められる役割や業務内容は変化していくものの、生成AI時代においても、いやむしろその時代だからこそ、プログラミングスキルの重要性は増している——それが冨松氏の見解である。
最後に永峰氏が視聴者へメッセージを送り、セッションは締めくくられた。
大切なのは、候補者に対する評価精度の向上ではなく、自社がどんな人材と未来をつくりたいのかという定義精度の向上である。生成AIは採用を自動化するのではなく、採用を透明化する。採用のミスマッチは偶発ではなく、設計不足である。そんな示唆が得られるセッションであった。

