4.訴訟になる前に取っておくべきだった対応(予防策)
(1)退職勧奨は慎重に
会社が、従業員に対し働きかけて退職に応じてもらうことを、退職勧奨といいます。法的には「退職の申込みの誘因」(労働者から退職を申し出るよう会社が働きかけること)、または会社から行う「合意退職の申込み」であると解されています。
退職勧奨は、勧奨された従業員がこれに応じて、初めて退職が成立します。
そして、従業員には諾否の自由があるため、従業員が応じなければ退職は成立しません。
したがって、基本的には、会社が人事管理等の必要に基づき自由に退職勧奨をすることができることになります。
しかしながら、不当な退職勧奨は認められません。今回は訓戒処分も行われており、XとBの関係悪化に対して何もフォローすることはなく、Xを腫れ物のように接し、退職勧奨で追い込んでしまったことは、Xの感情を傷つけるものでした。
Xを尊重し、丁寧に対応していれば、今回のような訴訟の提起に至らなかったかもしれません。
(2)精神障害の労災認定と雇用継続
今回は上記の理由でパワーハラスメントが認定されたことにより、併せて、その心理的負荷の程度は「強」と認められました。その結果、次のように述べて、雇用継続が認められることになりました。いわゆる、就業規則の休職期間満了による自然退職が認められなかったことになります。
以上によれば、原告は被告の業務に起因して適応障害を発症したと認められるから、労働基準法19条1項類推適用により,就業規則39条4項は適用されない。よって、就業規則39条4項に基づき原告を退職扱いとすることは許されず、本件雇用契約は継続していると認められる。この点に反する被告の主張はいずれも採用できない。
このように、会社が業務外の傷病と判断し、休職そして休職期間満了による自然退職を行う対応は、精神障害の背景や原因にパワーハラスメントが生じていれば、業務に起因するものとして認められないリスクがあります。
従業員が精神障害を発症した場合は、その背景や原因について、業務上の要因によるものか、業務外の要因によるものか、または本人(個体)側の要因によるものかを確認しておくことが重要です。

