必要な3つの環境要素
①ルール整備
1つ目は、生成AIを使用する際に必要なルールやガイドラインを整備することです。調査結果からも、社内の方針が明確であるほど活用が進んでいる傾向が見られました。どのツールを利用してよいのか、どの情報を入力してよいのかといった基本的なルールの明確化は活用の前提となります。特に個人情報の取り扱いについては判断が分かれやすいため、具体的な基準を示すことが重要です。
一方で、最初から完璧なルールを整備することは難しいため、運用を通じて見直し・更新していく前提で、現場と継続的にコミュニケーションが取れる体制を整えることも求められます。
②具体的なユースケースの共有
2つ目は、具体的なユースケースを共有することです。生成AIを活用していない理由の第2位として「どのように利活用していいかわからない」が挙げられていたことからも、具体的なイメージの不足が障壁になっていると考えられます。まずは「こう使ってみた」「こう役立った」といった簡単な事例の共有でも活用のハードルは大きく下がります。さらに、プロンプトのテンプレートを整備・共有することで、誰でも試しやすい環境をつくることができます。
③生成AIを活用する組織文化の醸成
3つ目は、生成AIの活用を前向きにとらえ、積極的に取り組むべき行動とする組織文化を育てることです。実際に、生成AIの活用に対して慎重な声もあります。特に多かったのは、「生成AIを使うことは、メンバーと向き合っていないことになるのではないか」「自分の経験や自分の感覚を大切にすべきではないか」といった意見でした。
下記いずれも前掲の調査より、マネジメント業務に生成AIを活用していない管理職の自由記述回答結果。
- 「AIを使用することそのものが、部下と真摯に向き合っていないことのような気がする」
- 「本人との会話を繰り返し、直接話し合わないと、本心が分からないから」
- 「誰か他人が作ったツールを利用するよりも、今までの自分の経験や感性のほうを信頼したいから」
- 「普段接している自分のほうが詳しい」
- 「生成AIを面談時に利用することはないし、今後も活用する方向へは移行しないと断言できる。人と人との会話のなかでは単純な文章としての言葉ではなく、それを発する人間そのものの表情や間からうかがい知れることのほうがはるかに多くかつ重要であるからだ」
こうした感覚は自然なものです。ピープルマネジメントは、人と人との関わりそのものであり、最終的には管理職自身の観察や対話が欠かせません。そのうえで、生成AIは「管理職の代わりにメンバーに向き合う存在」ではなく、「管理職がよりよくメンバーに向き合うための補助役」として捉えることが重要です。
AIを使うことへの抵抗感や遠慮をなくし、試行錯誤やチャレンジを歓迎する風土があるかどうかが、活用の広がりに大きく影響します。実際に、生成AIの活用を目標や評価の一部に組み込んでいる企業も見られます。こうした後押しが、現場での活用を定着させる鍵となるでしょう。
まとめ
今回は、生成AIの活用は個人の意欲だけで決まるものではなく、組織としての環境整備が大きく影響することが見えてきました。社内ルールや方針が明確な組織ほど活用が進む一方で、活用していない人の多くは「使わない明確な理由」があるというより、「きっかけがない」「使い方が分からない」状態にありました。だからこそ、明確なガイドライン、具体的なユースケースの共有、そして試行錯誤を歓迎する組織文化が重要になります。
ピープルマネジメントにおいて、自分の経験や直感を信じることは、現場で積み重ねてきた知見として大きな価値があります。ただ、それに頼りすぎるのではなく、生成AIを活用することで自分では見えていなかった視点や新たな選択肢が得られることもあります。
重要なのは「経験かAIか」という二者択一で考えないことです。管理職自身の判断を中心に据えながら、その補助役として生成AIを取り入れる。そうした向き合い方が、これからのマネジメントをより豊かにしていくのではないでしょうか。
最終回となる次回は、生成AIを活用することによるマネジメントそのものの本質的な変化について考えていきます。

