ERPではダメですか? カオナビ導入目的は人事情報の一元化
――HR Techも含め、人材管理に力を入れる企業が増えていますが、その背景をどう捉えていますか?
間違いなく、就業人口の減少が背景にあるでしょうね。これからどんどん減っていく一方なので、企業のマネジメント側の危機感はすごいと思っています。人材の確保ができない。人材の確保ができないから、店舗や営業所を閉めなければいけないところが出てきています。
そうすると人材を採用しようという意識が強まるとともに、今いる人材を辞めさせないようにしようとか、もっと有効活用しようという発想になるのは当然です。当面このトレンドは今後も続いていくと考えています。
――人口減少は10年も前からわかっていたことだと思うのですが、なぜ急速に意識が高まったのでしょうか?
確かに数字としてはわかっていたと思いますが、なかなか実感が伴っていなかったのではないでしょうか。団塊の世代が60歳を超えて退職していく一方、入ってくる若者は少ない。
加えて、産業構造の変化も大きいでしょうね。これまで製造業中心だったところから、情報産業へとどんどんシフトしていったことで、製造業でいきなり人材が採れなくなった。このインパクトも大きいと思います。
――カオナビへの問い合わせも製造業からが多いのですか?
今は業種のばらつきはなくなりました。ただ、サービス業で店舗形態のお客様は、人員確保に苦労されている印象を受けます。IT業界では、とにかくエンジニア! エンジニア! と言っていますしね。特定業界の特定業種にぽっかり穴が空いている。
特にITエンジニアは、社会のニーズと教育システムにミスマッチが起きているから生じている問題。社会の要請に教育システムが全然対応できていないのだと思います。東南アジアに行けばプログラミングなんて必修科目だし、文系だろうと関係なく最低限の知識。日本はものすごく遅れていますよね。
――カオナビを導入されている企業は、どんな目的で活用されていますか?
まずベーシックなところでは、単純に人事情報を一元化するため。「なんだそれだけか」という話なんですが、できていない企業が圧倒的に多いのが現状です。“この情報はExcelに入っていて、そっちは紙で保管してるからキャビネットにあって。その情報はここにあるけど、そっちは他の部署にある”みたいな。
でもマネジメントする側からすると、例えば、「柳橋仁機」というアイコンを開いたら、すべての情報が閲覧できる状態になっていてほしい。だから、それだけでも価値がありますよね――というところがカオナビのベーシックな価値です。
――既存のERPパッケージにも人材管理の機能はあると思うのですが、それではダメなんですか?
ERPの目的は、そもそも人事情報を可視化するためのものではない、というのが僕の理解です。ERPはあくまでも最終的な決算に向かっていくための基幹システムなので、閲覧を目的とするというよりは、計算処理を目的としている。閲覧の利便性は追及されていないんです。
――柳橋さんがカオナビをやりたかったのは、評価や給与といった人材管理に必要なデータを一元化したかったからですか?
一元化したかったというよりは、現場が使えるシステムの必要性を強く感じたんです。カオナビの事業を始める前、僕1人で人事システムの導入コンサルタントをやっていたのですが、その中で「もっと現場が使える人事システムがあったほうが絶対いい!」と強く思いました。
例えば、現場の部長が「新人の履歴書をくれ」と人事部にお願いしたとき、人事部は「明日出します」と言うんです。今ほしいのに明日って、ありえないですよね。おまけにフォーマットも統一されていない。要するに、現場ではプロジェクトメンバーの選定などに人事情報を必要としているのに、人事がそれに対応できていない。現場のために情報活用がされていないという現実が、おかしいと思ったわけです。
そんなときにサイバーエージェント取締役の曽山(哲人)さんから「顔写真を並べる」というアイデアをいただき、これだ! と直感しました。
――HR Techが盛り上がっているのは、就業人口の減少以外にも、そうした現場からの要請があったからなのでしょうか。
総論として、HR Tech市場が伸びているのは、現場の話以前に、単純にインターネットで人事システムが活用されるようになってきたからだと思っています。カオナビを創業した5〜6年前は、「人事システムをクラウドに置くなんて、けしからん!」という風潮がありましたが、今そんなことをいう人なんて、誰もいないですよね。
「タンス預金と銀行預金、お金を置いておくなら、どっちが安心?」という問いと同じだと思っています。手元にあるから安心なのか、しっかりとセキュリティシステムのある銀行に預けたほうが安心なのか。僕は「自社のサーバーで管理するよりも、AWS(Amazon Web Services)のようなクラウドで管理したほうが安全なのではないか」と考えるタイプなので、時間の問題だなと思いながら、時が来るのを待っていました。