優秀なIT人材の獲得がデジタルビジネスの推進を成功に導く最大の要因の1つとして認識されている中、世界中でIT人材不足が深刻化しており、どの国の経営者もこの難題に頭を悩ませている。ガートナーが2019年に実施したCEOおよび上級経営陣向けサーベイでは、ビジネス戦略の実現に向けて改善すべき組織コンピテンシの第1位は、人材管理だった。
同社 ディスティングイッシュト バイスプレジデントでガートナー フェローの足立祐子氏によれば、経営層が人材管理の改善に着目する背景には、まさに世界中で深刻化するIT人材不足があるという。このIT人材不足を引き起こしている主な原因には、「ITデリバリ能力に対する需要の急増」「技術および開発・運用に対する新旧アプローチに関するスキルのミスマッチ」「スキル転換の遅れ」などが挙げられる。それ以外にも、「新世代を中心とした働き方やキャリア観の変化」「女性や障害者など多様な労働力を包摂する取り組みの遅れ」なども、徐々にではあるが確実に影響を及ぼしつつある。
これまで多くの企業のCIOは、将来必要なスキル、キャパシティ (人数) を詳細に定義し、棚卸しをして、ギャップを埋めるための人材調達・育成計画に入るという「スキルベース」のIT人材戦略を推進してきた。スキルベースのIT人材戦略は、組織が大きいほうが運用しやすく効果を出しやすいという条件はあるものの、これまでは一定の有効性が認められてきた。
しかし、今後、デジタルビジネスイノベーションを推進していく上で、このやり方では人材育成上の大きな効果を期待できないとガートナーは見る。なぜなら、イノベーションを推進できる人材のスキルは、そもそも従来のスキルマップには存在しないからだ。従来の習慣を前提にした人材のスキルは、イノベーションの変化のスピードへの対応も困難であるため、ミスマッチとすら言える。
こうした背景から、スキルベースのアプローチに代わって、今後は「プロファイルベースのアプローチ[1]」へと人材戦略が移行していくとし、2025年までには、デジタルビジネスイノベーションを事業化段階まで到達させた企業の80%が、スキルベースからプロファイルベースの人材戦略に転換しているとガートナーは予測している。
なお、日本国内の事情について足立氏は、日本企業の約8割以上のIT組織が慢性的なIT人材不足に直面していると見る。世界中でIT人材の獲得競争が激化する中、日本企業のCIOはさらに大胆な施策を打ち出さなければならないとし、従来の常識と人材管理の定石に基づいた施策では、巨大デジタル企業との競争は言うまでもなく、デジタル戦略に本腰を入れ始めたグローバル企業に追随することすら困難になると指摘した。
注
[1]: ITスキルだけでなく、プロジェクトや領域ごとにチームに求められる人材の行動様式・働き方、他のメンバーや利害関係者との関係性、勤務場所、チームの特性や規模、必要なITスキル、ビジネススキル、さらには価値観や意識などを総合的に判断してIT人材像を特定するアプローチ。