佐藤 寛之(さとう ひろゆき)氏
株式会社カオナビ 取締役副社長 COO
上智大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーションに入社。大手企業向け組織変革コンサルティング部門にて営業を担当。シンプレクス株式会社にて人材開発グループ責任者を務めた後、株式会社カオナビに参画。事業の立ち上げを代表の柳橋と共に行う。現在は取締役副社長として、事業戦略を推進。
本記事は、2021年2月25日に開催されたイベント「HRzine Day 2021 Winter」でのセッション「タレントマネジメントシステムで従業員エンゲージメントを高める! ~先進企業の取り組み事例から学ぶ戦略人事の秘訣~」をレポートするものです。
タレントマネジメントが重要さを増している理由
人材の最適配置のためには、社員の個性や才能を把握し、現場の事情も加味しておく必要がある。かつて人材に関する情報は人事の頭の中だったかもしれないが、近年ではシステム化されて「タレントマネジメントシステム」として発展。テクノロジーが駆使され、人事がやってきたことの高度化と高速化が進んでいる。
今はVUCA(変動制、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代。価値観は多様化し「企業の人材は企業組織の歯車」というかつての考えは希薄化し、企業の社会的な意義は高まり、社員が家庭やプライベートを重視する傾向が高まっている。経営の視点ではビジネス環境が急速に変化し、人材活用の迅速化が求められている。また、労働市場を見ると、労働者の流動化や人口減少があり、かつてのような大量採用や終身雇用制は難しい。こうした環境変化や不確実性の高まりを背景に、タレントマネジメントの注目度が高まっている。
世代の変化もある。企業で働く社員にミレニアル世代が増えてきている。彼らは若いときからパソコンとインターネットがあるのが当たり前で育った世代だ。日常生活のSNS交流を通じて、オープン、カスタマイズ、リアルタイムを当然のように享受している。マスメディアよりも早く1次情報に接するなど、情報はオープンなものという感覚があり、アプリを開けば自分専用にカスタマイズされたコンテンツを目にし、何か投稿すれば数秒後に「いいね」や返事をもらえるなどリアルタイムの体験をしている。
こうした世代からしたら、企業は古くさい習慣にあふれて見えるかもしれない。重要な情報がマネジメント層に限定されていたり、画一的な人事施策や評価が半年や年ごとだったりしたら違和感を覚えて当然だ。彼らの従業員エンゲージメント(以下、エンゲージメント)にも影響するだろう。企業は在籍する従業員の価値観に合わせていく必要がある。
カオナビ 佐藤氏は、エンゲージメントの要素として「目標、活動、構成員、特権」の4つを挙げた。これらは社会心理学から見た、人間が組織に帰属する誘因だ。これを会社に当てはめると、目標なら会社の理念や事業戦略があり、活動なら事業内容や仕事内容、構成員ならマネジメントや組織風土、特権なら業務環境や福利厚生などになる。
さらに、これらを具体的な施策に落とし込むと、例えば、事業目標からブレイクダウンした人事制度や事業計画実現に向けた適切な要員計画などが挙げられる。佐藤氏は「全ての誘因を満たすことは難しい。自社の優先順位を把握することが大事。今は改めて整理するときに来ているのでは」と問いかける。
エンゲージメントとタレントマネジメントの考え方
ここで、本稿で重要な要素となるエンゲージメントとタレントマネジメントについて確認しておこう。
エンゲージメントは「会社からの提供価値」と「個人の会社への期待」からなり、2つの重なりが大きくなるほどエンゲージメントが高くなる。一般的に入社時は、会社からの提供価値と個人の会社への期待はまだうまくかみ合ってない。しかし、時間を経て、配置やローテーションなどで個人の期待に会社が応えることができると、エンゲージメントが高まり好循環が生まれていく。
しかし、コロナ禍をきっかけにテレワークが普及し、社員が毎日のように顔を合わせることがなくなってきた。これまでは、出勤するだけで社員同士にエンゲージポイント(接点)があったのに、それがなくなってしまったわけだ。そのため、企業は社員に伝わりやすいような形や言語を通じて、リテンションバインディング(離職を防止するつなぎ止め)を続けていく必要がある。代表が社員に語りかける機会は特別な場所で年に1度だったとしたら、これからはオンラインで月次にするなど、より頻繁にするほうがよいかもしれない。また、より個人にフォーカスし、会社と個人の意向のすりあわせがうまく行くようにするのがポイントだ。
タレントマネジメントとは、組織に眠っている人材情報をオープンにして、人事だけではなく経営や現場と共有し、組織の潜在能力を最大化する施策だ。かつての人事業務と大きく異なるのが、人材情報を人事部門だけが抱えるのではなく、経営や現場とも共有するところである。
タレントマネジメントで共有する人材情報(データ)では、スキルやモチベーションの情報も包括的にとらえることが重要になる。佐藤氏はそこで[MUST][CAN][WILL]の3つの要素を挙げた。[MUST:これまで何を期待されてきたか]は異動履歴や役職履歴など、[CAN:今何ができるか]は人事評価、学歴や職歴、研修、アセスメント、語学、表彰、資格など、[WILL:これからどうなりたいか]は自己申告、新規事業提案、面談、家庭の事情を踏まえた意向などになる。
[MUST]や[CAN]は履歴の蓄積になる一方、[WILL]は本人の意向なので変化していく性質がある。これらを立体的にとらえられる状況をシステムで実現するものがタレントマネジメントシステムだ。また、佐藤氏はタレントマネジメントの成功の秘訣として、「あらゆる立場の人が使えるような仕組みを持ち、人材データの鮮度と解像度を保ち続けることが大切です」と強調する。タレントマネジメントシステムはそのための機能を備えていなければならない。
「カオナビ」は、まさにそうしたタレントマネジメントシステムだという。タレントマネジメントに関わる多種多様な情報を集約し、戦略的人事を実現する。経営陣なら(経営人材など)優秀な人材の把握ができて、管理職なら部下の人となりを熟知でき、人事なら業務の効率化、一般社員なら社内コミュニケーションの活性化につなげることができる。もちろんそれぞれ役割や目的が異なるため、開示する情報は立場により権限設定をする。
あらゆる立場の人が利用するため、カオナビは直感的なインターフェイスになっている。顔写真をクリックすれば該当者の情報を見ることができる。情報は個人単位だけでなく、部署単位でも見られる。また、異動のシミュレーションや配置抜擢の検討も可能。カオナビはクラウドのプラットフォームであるため、どこからでもアクセスできる(制限可能)ほか、セキュリティも強固に施されている。
「カオナビ」のエンゲージメントへの効果
ここからはタレントマネジメントシステムのカオナビを導入して、実際に企業と社員のエンゲージメントを高めた事例を紹介しよう。
引っ越し会社A社
A社ではカオナビを通じ、社員を対象に頻繁に(年に10回以上)アンケートを実施するようになった。アンケートのテーマはスキル、今後のキャリア意向、研修を受講した感想など多岐にわたる。アンケートの結果はジョブローテーションや研修内容の改善に活かしている。
一般的に、アンケートを頻繁に実施すると、次第に社員が飽きて答えなくなるリスクもある。回答率を高めるためには簡単に回答できるような工夫が必要だ。社員にしてみれば時間や労力を提供しているため、インセンティブがなければ回答しなくなる。
A社ではアンケートの結果をもとに研修制度を改善するなど、アンケートに回答することに何らかのメリットを感じられるようにしている。これはアンケートの回答率を高めるだけではなく、アンケートを通じた社員と企業とのキャッチボールを成立させ、エンゲージメントや信頼関係の向上につながっている。実際に、アンケートで寄せられる声も率直な本音が増え、好循環が起きているという。
なお、A社ではリファラル採用が増え、採用にも良い効果をもたらしている。リファラル採用はエンゲージメントがある程度高くないと進んでいかない。これもタレントマネジメントシステムの導入でエンゲージメントが向上したことによる効果の一つといえよう。
鉄道会社B社
大企業でよくあるように、B社ではホールディングス(持ち株会社)で人材を採用し、事業会社に配属している。ただ、事業会社をまたいだ人材交流や抜擢人事を行っていきたい同社は、ホールディングス全体で人材を把握しようとタレントマネジメントの導入を決定。それを支援するシステムとして、カオナビを採用した。
A社同様に、B社もカオナビを通じて各事業会社の従業員にアンケートを行ったが、当初はなかなか本音で答えてくれなかったという。そこで、回答をくれた人に丁寧にフィードバックを繰り返し、徐々に信頼関係を強くしていった。これにより、意味のある回答が多く寄せられるようになり、それを踏まえて、各組織で配置する人員のバランスをとったジョブローテーションも可能になったとのことである。
食品会社C社
C社では、従業員のコンディションを把握するため、カオナビで「パルスサーベイ」を実施している。このパルスサーベイの重要性がコロナ禍で高まっているという。とりわけテレワーク下で、上司と部下の関係性を健全に保つために欠かせない。
毎日オフィスで顔を合わせていたら「あの2人、けんか腰で会話してるぞ?」「上司が怒っているが、何かあったのかな?」など自然に周囲に伝わっていたものが、テレワークでは伝わりづらい。会議はオンラインになり、コミュニケーションもクローズドな状態になってきている。そこで、パルスサーベイを頻繁に実施し、人事イベントや時系列で見ていく。すると、社員のコンディションがつかめてくるのだそうだ。佐藤氏も「データを蓄積すると突然の退職の兆候がつかめてきます」と話した。実施する価値がありそうだ。
輸送会社D社
D社では、経営人材育成にカオナビが効果を上げている。従来なら評価が高い人材を経営候補としていたが、それだけではなく、カオナビを通じて候補者のモチベーションや意向、候補者が所属する部署の事情なども合わせて判断できるようにした。具体的には、カオナビの「配置バランス図」機能を使い、配置のシミュレーションを行うことで、本人と所属部署、経営陣ともに納得感が高く、人材が育成され、不都合も最小限とした人事異動ができるようになったという。
不動産会社E社
合併した企業なので、従業員同士が分かり合えるように、一般社員にもカオナビにアクセスできる権限を付与した(当然社員には情報開示の許可をとり、社員向けには情報の開示範囲を限定している)。互いに顔と名前、特徴などが分かるようになり、組織の一体感を高めるのに寄与している。特に「Who Know What(誰が何を知っているか)」が好評だという。
最後に佐藤氏は、「人材領域はシステムを導入すれば全て解決するとは限りません。ノウハウも合わせて活用することで効果を高めることができます」と話してセッションをまとめた。
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