荒金 泰史(あらがね やすし)氏
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRアセスメントソリューション 統括部 マネジャー
入社以来一貫してアセスメント領域に従事し、顧客の人事課題に対し、データ/ソフトの両面からソリューション提供・実証研究を実施。入社者の早期離職、メンタルヘルス予防、エンゲージメント向上、組織開発の領域に詳しい。現場マネジャーの対話力を向上させるHR Technologyサービス「INSIDES」の開発責任者を務める。
本記事は、2021年2月25日に開催されたイベント「HRzine Day 2021 Winter」でのセッション「立ち返れ! 間違いだらけの『エンゲージメント』向上」をレポートするものです。また、荒金氏の連載「経営人事とエンゲージメント再考」はこちらからお読みいただけます。
「熱意・活力・没頭」の3つがそろった心理状態を作れ
荒金氏はまず、エンゲージメントの向上が重要になった理由として、次の2つを指摘した。
- VUCAの時代を、従業員一人ひとりの高い意欲と創意工夫で生き残るため
- 遠心力ばかり強まる世の中で企業に対する求心力を保つため
そもそも、エンゲージメントとは何か。それを理解する上で役立つのが、ユトレヒト大学のWilmar B. Schaufeli教授が提唱した「熱意・活力・没頭」を持って仕事に取り組むことができる状態、という考え方である。では、熱意・活力・没頭の3つがそろった心理状態とはどのようなものか。荒金氏によれば、「従業員一人ひとりにとって仕事が自分のものになっており、かつそれぞれが自分の仕事に手応えを感じられる状態」だという。人事としても、エンゲージメント向上のために目指すビジョンは同じであろう。
しかし、ほとんどの企業では、実際には組織が不満に感じる要因を洗い出し、それらの解消に向けた活動に焦点を当ててしまうことが多いのではないだろうか。これに対して「そのような活動と先の3つがそろった心理状態を作る活動は別々であるべき」というのが荒金氏の主張だ。
従業員の仕事に対する価値観が多様化する中、一人ひとりの仕事や会社への共感の接点はそれぞれに異なる。そうなると、年齢や職種別の決め付けは危険だ。エンゲージメントは、図1に示すように、「仕事や会社への共通の接点がある」「当事者意識を持って仕事に創意工夫を加える」「周囲からのフィードバックを受けて自信を持てる」「目の前の仕事と、今の自分への誇りが芽生える」という心理形成のプロセスを経て少しずつ醸成される。
荒金氏は「この一連のプロセスでは身近なところで相手をよく見て、その人が自分なりに取り組んでいることに対して肯定的なフィードバックを与える存在が極めて重要」と訴える。人間は呼応する存在なので、自分一人だけでやる気を奮い立たせることは難しいが、周囲からの適切な声かけで自分を認識できるからだ。
問題は、本社にいる人事が従業員一人ひとりに目を配るのには、現場との距離が遠すぎることだ。組織の規模にもよるが、従業員数が100人を超えるとどうしても目が行き届かなくなる。人事が全員に目を配れない以上、その役割を担うのは現場のマネジャーになる。つまり、人事としては、現場のマネジャーに対し、チームの一人ひとりに自信を付けさせるコミュニケーションを取ってほしいと伝えなくてはならない。その意味で、現場に「これができていない」「ここが課題」と一方的に押し付けてしまうと、マネジャーたちがエンゲージメント向上に前向きに取り組みにくくなると分かる。