企業におけるAI人材育成の進め方
企業におけるAI人材育成は、AI人材育成計画の策定から始まります。どのAI人材タイプをいつまでに何名育成するのか計画し、育成計画書としてまとめます。
AI人材の育成は、育成規模に応じて三段階に分けることができます。AI人材育成を始めて1~2年目の「黎明期」では、直近のAIプロジェクトに対応できる即戦力人材の育成に取り組みます。黎明期で育成するAI人材の数は、会社の規模によって異なりますが、まずは数名~十数名の育成を目標に活動します。
ある程度AIプロジェクトに対応できる人材が増えてきたら、AI人材育成の「発展期」に3~5年ほど入ります。発展期では、事業拡大に応じて必要となる数十名~百名のAI人材を育成することを目標に活動を進めます。自社内のAI人材で安定的にAIプロジェクトを進めることができるようになれば、最後の「成熟期」に入ります。育成を始めて5~8年目の成熟期では、全社的な活動として持続的に数百名規模のAI人材育成に取り組みます。
AI人材育成計画の策定
AI人材育成計画は、自社で必要となるAI人材のタイプを明確にすることから始めます。AI人材はAIプロジェクトマネージャーからAIユーザーまで、さまざまな人材タイプに分けることができます。AI事業を専門にしている企業では、自社ですべての人材タイプを内部育成することを目標に活動しますが、それ以外の企業では一部の人材タイプのみ内部育成し、その他は外部委託で賄うことが一般的です。まず自社で内部育成すべき人材タイプを明確にした上で、育成計画を検討します。
次に、それぞれの人材タイプをいつまでに何名育成するのか目標人数を設定します。企業によって必要となるAI人材の数は異なりますが、3~5年程度の将来を見据え、内部育成するAI人材の目標数を設定します。そして最後に、AI人材の育成方法について検討します。
育成するAI人材の明確化
企業におけるAI人材の構成として、どのようなパターンがあるのか確認しておきましょう。どの人材タイプを内部育成/外部委託するのかによって、5つの構成パターンに分けることができます。AI人材の外部委託先としては、コンサルティングファームやAI専門会社、ITベンダーなどがあります。どの構成パターンを採用するかによって、自社内で育成すべき人材タイプが変わってくるため、AI人材育成計画の中で明確にしておく必要があります。
AI人材構成パターン:①完全内製型
「完全内製型」は、企画フェーズから活用フェーズまでAI活用に関わるすべてのタスクを、自社内のAI人材で対応するパターンです。AIを競争力の源泉と位置付けている企業や、AIを活用した業務の実現を支援するITベンダーなどがこのパターンに該当します。これらの企業は自社内でAI活用に関わるタスクを完結させる必要があるため、すべてのAI人材を内部で育成します。必要に応じて、外部から必要な人材を調達することもありますが、基本的に自社内で一通りの人材タイプがそろうように内製化を進めます。
完全内製型を目指す場合は、AI人材育成プログラムも自社内で独自構築することが一般的です。他社が提供するAI人材育成プログラムを流用するだけでは競争優位につながらないため、自社の事業ドメインや従業員構成に応じたオリジナルの育成プログラムの作成が必要になります。
<完全内製型の育成方針>
- 実施タスク:AI活用に関わるすべてのタスクを自社内のAI人材で対応
- 育成対象:AIプロジェクトマネージャー、AIプランナー、AIエンジニア、システムエンジニア、AIユーザー
- 外部委託:必要に応じて不足分を外部から調達
AI人材構成パターン:②企画外注型
「企画外注型」は、企画フェーズに関するタスクを外部に委託し、それ以外のタスクを自社内のAI人材で対応するパターンです。AI導入経験の少ない企業や、新たなAIビジネスを立ち上げようとしている事業会社などがこのパターンに該当します。AI企画の得意なコンサルティングファームなどに企画フェーズのタスクを委託し、AI活用の企画案をまとめてもらいます。自社内では、企画フェーズ以外の実証フェーズから活用フェーズを遂行するAI人材を育成します。
企画外注型では、AI企画そのものを外部に委託するため、実現可能性の乏しいAI企画案が納品されてしまうリスクがあります。絵に描いた餅のような企画案を受け取らないために、自社内でAI企画の実現可能性を判断できる人材を育成しておくことが重要になります。
また、外部委託先が企画の立てっぱなしで終わらないように、業務検証や現場適用の協力を依頼し、活用フェーズまで関係性を維持することも必要です。外部委託先に活用フェーズまで見据えてAI企画案を作成してもらうことが、AIプロジェクトの成功につながります。
<企画外注型の育成方針>
- 実施タスク:企画フェーズは外部に委託し、実証フェーズから活用フェーズを自社で対応
- 育成対象:AIプロジェクトマネージャー、AIプランナー、AIエンジニア、システムエンジニア、AIユーザー
- 外部委託:企画フェーズを担当する人材
AI人材構成パターン:③エンジニア外注型
「エンジニア外注型」は、AIエンジニアとシステムエンジニアが担当するタスクを外部に委託するパターンです。AI専門会社と連携している事業会社や、ITを専門とするグループ企業を持つ事業会社などがこのパターンに該当します。技術的な専門性が求められるAIモデル開発やAIシステム開発を外部に委託するため、自社の人材はAI企画やAI活用に注力することができます。エンジニアを多く抱えていない企業でも、このパターンを採用することでAI活用に取り組むことができます。
エンジニア外注型では、AI改善/システム改善のたびに、社外のエンジニアに作業を依頼する必要があるため、自社でAIエンジニア、システムエンジニアを抱えるよりもコスト増になる場合があります。
また委託先のエンジニアのドメイン知識やAI実装スキルが不足していた場合、希望通りのAIモデルやAIシステムが納品されないリスクもあります。エンジニア外注型を採用する場合は、外部委託先の品質を管理できる人材を内部で育成しておくことが重要になります。
<エンジニア外注型の育成方針>
- 実施タスク:AIモデル開発やAIシステム開発、AIシステム運用を外部に委託し、AI企画やAI活用を自社で対応
- 育成対象:AIプロジェクトマネージャー、AIプランナー、AIユーザー
- 外部委託:AIエンジニア、システムエンジニア
AI人材構成パターン:④専門家外注型
「専門家外注型」は、AIプロジェクトに関する専門性を持つAIプロジェクトマネージャー、AIプランナー、AIエンジニアが担当するタスクを外部に委託するパターンです。初めてAI導入を行う企業や、AI専門会社と連携している事業会社などがこのパターンに該当します。
AIプロジェクトのマネジメントからシステム構築まで外部に委託するため、AI導入経験のない企業でも、このパターンを採用することでAI活用に取り組むことができます。外部委託先としては、コンサルティングファームやAI専門会社、ITベンダーなどがあります。
専門家外注型では、日頃から社内システムを運用しているシステムエンジニアの役割が重要になります。外部委託先とうまく連携しながら、AIモデル開発に必要なデータを収集したり、業務システムの中にAIモデルを組み込んだりします。最終的に構築されたAIシステムは、自社のシステムエンジニアが運用することになるため、外部委託先からしっかりとスキルトランスファー(引継ぎ)を受けておくことが重要になります。
<専門家外注型の育成方針>
- 実施タスク:AI企画/実証/導入に関するタスクを外部に委託し、AI活用やAIシステム運用を自社で対応
- 育成対象:システムエンジニア、AIユーザー 外部委託:AIプロジェクトマネージャー、AIプランナー、AIエンジニア
AI人材構成パターン:⑤アウトソーシング型
「アウトソーシング型」は、AIプロジェクトに関するタスクの大部分を外部に委託するパターンです。AI活用だけに注力したい企業や自社内にAIを実装する人材を抱えることができない事業会社などがこのパターンに該当します。AIに関する専門性が求められるタスクを外部に委託するため、自社の人材はAI活用に注力することができます。
AIの専門家を抱えていない企業でも、このパターンを採用することでAI活用を始めることができます。外部委託先としては、コンサルティングファームやAI専門会社、ITベンダーなどがあります。
アウトソーシング型では、AIプロジェクトに関する大部分のタスクを外部に委託しますが、それぞれのフェーズにおける意思決定は自社で行う必要があります。AIプロジェクトを立ち上げるか、AI導入に進むか、AIシステムをサービスインするかなどを自社内で協議し決定します。そのため、各フェーズで意思決定を行う人材は内部で育成しておかなければなりません。
また、外部委託先とうまく連携しながら現場適用を進めるために、自社内に一定数以上のAIユーザー上級者を育成しておくことも重要になります。
<アウトソーシング型の育成方針>
- 実施タスク:AIプロジェクトに関するタスクを外部に委託し、AI活用のみ自社で対応
- 育成対象:AIユーザー 外部委託:AIプロジェクトマネージャー、AIプランナー、AIエンジニア、システムエンジニア
AI人材目標数の設定
自社で育成するAI人材タイプが明確になったら、次は育成するAI人材の目標数を設定します。企業によって必要となるAI人材の数は異なりますが、3~5年程度の将来を見据え、それぞれの人材タイプをいつまでに何名育成するのか検討します。AI人材の目標数を設定するためには、将来におけるAI人材の必要人数の試算が必要です。
将来必要となるAI人材数は次の方法で試算します。AIの活用を検討している事業会社の場合、AIを活用する組織の数を基に、将来必要となるAI人材数を試算します。まず、3~5年後の将来において、どの部門/部署にAI活用を浸透させたいのか整理します。
AI活用を浸透させたい部門数あるいは部署数が決まったら、それぞれの部門/部署に何名のAI人材を配置したいのか検討します。各部門/部署に配置するAI人材の数は、組織の大きさによって異なるため一概に何人必要とはいえませんが、上級者を10%程度、中級者を30%程度、初級者を60%程度の割合で配置できるように試算します。例えば、1つの部署に20名のAI人材を配置すると考えた場合、上級者を2名、中級者を6名、初級者を12名確保できるようにする、といった具合です。
AI活用を浸透させたい部門数あるいは部署数に、部門/部署あたりのAI人材配置数を掛け算することによって、将来必要となるAI人材数を試算することができます。多くの事業会社では、ここで紹介したAIを活用する組織の数を基に AI人材目標数を設定しています。
次に、AI専門会社やITベンダーで採用されている試算方法について紹介します。AI専門会社やITベンダーではAI活用による売上が重要となるため、将来のAI事業の売上規模から必要となるAI人材数を試算します。まず、3~5年後の将来におけるAI事業の売上目標を検討します。次に、AI事業における1プロジェクトあたりのAI人材構成および売上金額(プロジェクト単価)を整理します。
プロジェクトによって売上金額が大きく異なる場合は、大規模、中規模、小規模などに分けるようにします。1プロジェクトあたりの売上金額(プロジェクト単価)を、プロジェクトに関わるAI人材の数で割り、AI人材1人あたりのAIプロジェクト平均売上金額を計算します。上級者、中級者、初級者の貢献度を加味したい場合は、それぞれに重みをつけて計算します。
1人あたりのAIプロジェクト平均売上金額を整理できたら、AI人材が年間で対応できるAIプロジェクト数を考慮し、将来の年間売上目標をAI人材1人あたりの年間売上金額で割って、必要となるAI人材数を試算します。
通常、AIプロジェクトを複数経験すると、効率的にプロジェクトを進めることができるようになるため、AI人材1人あたりの年間売上金額は、年を重ねるごとに少しずつ増えていくように設定します。上記の方法を用いて、3~5年後の将来において必要となるAI人材数を試算し、自社で内部育成するAI人材の目標数として設定します。
AI人材育成方法の検討
自社で内部育成するAI人材タイプと育成目標人数が整理できたら、AI人材の育成方法について検討します。企業によって育成すべき人材タイプが異なるため、自社のAI人材が担当するタスクを確認し、そのタスクに対応した育成施策を検討します。