Works Human Intelligenceは、同社の統合人事システム「COMPANY」のユーザーである大手法人を対象に、中高年人材(45歳~59歳)[1]の働き方に関する状況調査を実施。各法人における中高年の雇用制度の状況や課題感について調査結果を発表した。調査期間は2021年8月13日~9月30日で、54法人から回答を得ている。
調査結果は以下のとおり。
中高年人材の状態変化とサポートに関する各項目に対して、課題感の有無を聞いた結果、1位「自律的なリスキル(学び直し)の必要性」、2位「教育・研修、学びの場の少なさ」、3位「キャリア支援の不足」となり、中高年人材の学びや、キャリア支援の不足に対する課題感の存在が浮き彫りになった。
「特に課題感が強いもの」について、自由回答を募集したところ、リスキルや役職定年(ポストオフ)後のモチベーションに関するものなど、次のような回答が得られた。
- 50歳以上の方に対する教育研修の機会があまりないので充実させたい。
- 専門性やスキルが時代によって変わっているにもかかわらず、昔取った杵柄や過去の成功体験に引きずられている人がいる。
- 40代から50代にかけて、ライン管理職となっている者が多く、多忙のために自己研鑽の時間が取れない。
- 役職定年後の管理職のモチベーション維持が課題。特に定年延長(65歳)されれば当該期間が10年となるため、無視できない。
- 役職定年後に求められているミッションや役割を理解する機会がないまま業務に就いている状態であり、人によってはモチベーションが低下し、事業所内のお荷物状態になってしまっている社員が出てきている。
- 滞留者のリテンション。
研修制度について、45歳以上の正社員に対してキャリア形成や学び直しのための研修制度が「ある」と回答した企業は23.2%であった。自律的なリスキルの必要性に課題を感じているものの、中高年人材向けの研修制度の導入はあまり進んでいない様子がうかがえる。
キャリア制度として、45歳以上の正社員が仕事を自ら選択するしくみ(社内公募、コース選択など)が「ない」と回答した法人は75.0%、キャリアの複線化制度が「ない」と回答した法人は71.4%と、従業員自らがキャリアを選択する制度の導入はまだあまり進んでいないことがうかがえる。
周囲の社員への影響に関する項目に対して、課題感の有無を聞いた結果は、「課題感あり」の回答が多い順に、1位「スキルや知識、経験の継承」、2位「次世代の中高年層に対する打ち手」、3位「評価や昇格の年功化、中心化傾向」となり、中高年人材の持つ経験に由来するノウハウ継承については多くの法人が課題を感じている結果になった。
また、「特に課題感が強いもの」について自由回答を募集したところ、次のような回答が得られた。
- 熟練者から若手社員へのスキル継承が実地作業および個々人の力量に偏りがちとなり、結果的に環境(若手社員の優秀さ・定着度合い等)に差が出易い傾向にある状況。
- 経験をノウハウにするためのスキルが足りておらず、それが後進の育成、業務におけるイノベーションに繋がっていない。
- 後継者の整理ができていない、次世代の管理者の育成・教育が進んでいない。
- 同一賃金がうたわれている中での、役職定年者・再雇用者への業務内容
- 役職定年者が急増していく中で次世代の管理職候補も少なく、ポスト不足が懸念される。
WHI総研シニアマネージャー 伊藤裕之氏より提言
アンケート結果からは多くの企業にとって、中高年社員の自律的なリスキル(学び直し)の実現が必要不可欠と考えられているにもかかわらず、教育や学びの場所の整備、今後のキャリア形成に向けた支援については不足や課題があることがうかがえる。このことから、対策が求められる状況といえるだろう。
中高年人材の自律的なリスキルの具体的な進め方として、オンラインの研修サービス等自主的な学びの環境の整備や、研修や学習への参加のための金銭面、業務面のサポート、社内公募や副業、兼業といったキャリアの多様性への準備といった制度面のサポートが考えられるが、併せて下記の3点について考慮した実施の検討が望ましいと考える。
①リスキル・学び直しとキャリア形成に対する経営からのメッセージ
まずは、今後のキャリアを見つめ直し、リスキルや学び直しを行うことについて、これからの企業の持続的成長に不可欠であり、何よりも優先すべき事項であると、経営部門から社内外に発信することが第一。現業が優先となりがちな管理職や従業員に対して、リスキルや本人の意思を尊重したキャリア選択が妨げられないように原則を示す。
②本人のモチベーションを加味した学びやキャリアの選択
施策の前に中高年人材の今の仕事を整理して、各人の仕事が会社にどんな価値を生むのか、どんなスキルや経験が必要なのか、企業が何を期待しているのかを明確にすべきである。そして、従業員の意識の実態と課題、ギャップを把握した上で、業務に生かせるリスキルが本人にとってもメリットとなるようなしくみが必要だろう。具体的には次のような例が挙げられる。
- これまでの経験、知見やリスキルの成果を生かした、社内外への発信、ナレッジの提供
- リスキルした結果を生かすことができる、新たな業務や事業への参画の機会や社内公募、社内/社外副業など、キャリアや働き方に対する選択肢の提示
- リスキルを生かした成果や社内へのナレッジ、知見提供に対する評価、処遇の明確化
特に、中高年人材の経験(暗黙知)を企業と次世代人材のナレッジ(形式知)に転換することを評価し、称賛することは大きなモチベーションにつながるとともに、業務の持続性に貢献するものと考える。
③現場をカバーする制度運用の用意
中高年人材のキャリアや、本人の学び直しへの意思を尊重したことによって、現場の業務や職務に空きが生まれるのであれば、周囲の従業員にとっても業務負荷とネガティブな印象を与えかねない。該当の部門に対して次の異動時期に優先的に配置を行う、リスキルや中高年のキャリア形成にポジティブな影響を与える管理職を昇格や賞与で報いる、という形でメリットを提示し、協力を促すことが必要となるだろう。
以上のように、リスキル、学び直しは単なる教育施策ではなく、全社的な重要課題として捉え、等級制度、評価、処遇、配置といったさまざまな制度や運用の中で組み込むことが、具体的な成果への第一歩になると考える。
注
[1]: 同調査では調査対象となる「中高年人材」について、厚生労働省の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」などを参考とし、45歳~59歳までの正社員を対象とした。