本連載スタートの背景と意図
近年、人事、あるいはビジネスの領域に限らず、「エビデンスに基づいた意思決定をしよう」という機運が高まっています。同時に、デジタルトランスフォーメーション(DX)に代表されるように、データやテクノロジーを活用することで、さまざまな取り組みを変革しようという機運も高まっています。
また、人事の領域に目を向けると、「HRテクノロジー」「HRDX」「HRアナリティクス」「ピープルアナリティクス」「データドリブンHR」など、「人事とテクノロジー」「人事と分析」あるいは「人事とデータ」を組み合わせた言葉を目にすることが多くなったと感じる方も多いと思います。
一方で、これらのことについて、「いまいち、イメージが湧かない」「高度で難しいイメージがある」「まだ、自社で取り組むには時期尚早」という感想を持ち、一歩距離をおいている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これらのことによく目を向けてみると、皆さんにとって、「すでに自社でも取り組んでいる」こともあれば、「案外、自社でもすぐに取り組めそう」と思えること、また、「少しストレッチではあるが、自社でも取り組んだほうがよさそう」と思えることが少なくないと私は考えています。
そこで、本連載では、少しでも「身近なこと」「できそうなこと」という感触をつかんでいただくことを目的に、特に「人事データ活用」に焦点を当て、昨今のトレンド、取り組みの具体的なイメージ、また、皆さんが着手する際のポイントなどを紹介していきます。
人事データ活用とは
人事データ活用は、シンプルにいえば、「組織・人材に関するデータを用いて、よりよい意思決定・アクションを行うこと」です。ポイントは、データを用いることはあくまで手段であり、意思決定・アクションにつなげることが第一の目的であることです。
では、「組織・人材に関するデータ」とは、具体的にはどのようなものでしょうか。一例を示したものが図表01です。皆さんの会社の中にも、これらに該当するデータのうち、いくつかがあるかもしれません。
続いて、「データを用いる」とは、どういうことでしょうか。一例は図表02です。データを図表などで分かりやすく「可視化」する、複数のデータの関係性を明らかにして「要因把握」する、そして、例えばパフォーマンスなどの結果を複数のデータから「予測」することなどが、よくあるデータの利用方法です。
では、意思決定・アクションのために「人事データを活用する」とは、どういうことでしょうか。いくつかの人事業務におけるデータ活用の例を示したものが図表03です。
採用の場面を例に、イメージを具体的に補足します。例えば、採用選考において、面接での人物の見極めの精度を高めるために、適性検査の報告書を用いた経験のある方もいらっしゃるかと思います。これは、「可視化された人物特徴によって、選考という意思決定の質を高める」取り組みです。
また、入社後の活躍状況別に、適性検査でどのような傾向が見られるかを確認した経験のある方もいらっしゃるかもしれません。これは、「選考という意思決定の質や効率を高めるために、選抜基準を見直す」というアクションにつながる取り組みです。
最近では、入社後の活躍状況と適性検査の関係を分析した結果をもとに、入社前の適性検査から活躍度合いを予測するようなアルゴリズムを構築し、採用の質・効率を高める取り組みをされている企業もあります。
これらは、いずれも人事におけるアクションや意思決定の質や効率を高めるものであり、目的を持ったデータ活用といえます。データ活用というとアルゴリズム構築などのイメージが先行するかもしれませんが、シンプルに可視化された情報で意思決定やアクションの質を高めることもデータ活用です。また、人事領域に限らず、実は業務の中でのデータ活用の多くは、可視化や要因把握であったりします。皆さんも、すでに取り組んでいる「人事データ活用」があるのではないでしょうか。