組織サーベイと360度フィードバックの導入状況
まず、両ツールの企業における導入状況をご紹介します。
「組織サーベイ」とは、エンゲージメントサーベイや従業員満足度(ES)調査など、組織全体や個々の職場の状態を把握することを目的としたツールのことです。この組織サーベイを導入する企業は、近年増加傾向にあります。たとえば、矢野経済研究所の「従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウド市場規模推移・予測」によると、2020年には38億円程度であった市場規模は、2022年には57億円程度になると推計されています。
また、「360度フィードバック」(360度評価、多面評価)も注目を集めています。管理職などの対象者が職務でとっている行動などを評価するためのツールで、上司・同僚・部下・本人と、さまざまな立場・関係性の回答者から評価を得ます。当社が実施した「360度評価活用における実態調査」によると、2020年の導入率は31.4%と、少なくない数の企業が利用するツールとなっています。
マネジメント変革のPDCAツールとして活用できる
組織サーベイも360度フィードバックも、必ずしもマネジメント変革を目的に実施しているわけではありません。しかし、両ツールとも、図表1のように現状を把握することで目指す姿とのギャップを明らかにし、そのギャップを埋めるためのアクションを重ねていくこと、すなわち組織・職場の改善や管理職などの行動改善など、マネジメント変革に向けたPDCAサイクルを回すことに利用できるのです。
両ツールをマネジメント変革に向けたPDCAサイクルで活用する際にはあらかじめ、変革の結果として目指したい組織や管理職の姿を明確にすることと、目指したい組織や管理職の姿に至っているかどうかを確認できる質問内容にすることがポイントです。
すでに組織サーベイや360度フィードバックを行っているのだけれども、「現状把握にとどまっている」「目指す姿が明確になっておらず、とりあえず既製品を利用するにとどまっている」「目指す姿は明確だが、ツールにその内容が反映されていない」ということであればもったいないので、活用方法や内容の見直しをおすすめします。
「実施する」だけで大きな意味がある
PDCAサイクルを回すことは大切ですが、成果が出るまでに時間がかかることもあります。しかし、組織サーベイや360度フィードバックは「実施すること自体」が大きな意味を持っており、実施するだけでマネジメント変革の一歩を踏み出したといえます。
たとえば、組織サーベイの実施であれば、従業員は、「経営層は従業員のエンゲージメントに関心がある」「経営層はエンゲージメント向上に取り組もうとしている」というメッセージを受け取ります。また、360度フィードバックを実施するのであれば、従業員は、「自社では、管理職にイノベーションに向けた変革行動を求めている」というメッセージを受け取ることになります。
すなわち、組織サーベイや360度フィードバックには、変革のゴール(組織サーベイであれば「組織として何を大切にするようにしたいか」「組織としてどのような姿を目指したいか」など、360度フィードバックであれば「管理職にどのような行動を取ってほしいか」「管理職にどのような価値観を体現してほしいか」など)を示し、それを従業員にインプットするという効果があるのです。
ただし、このような効果は見落とされてしまうこともあるので、あらためて意識してもらえればと思います。また、このような効果があることを念頭に「実施フェーズ」にもこだわりを持ち、「どのような内容にするか」「どのようなタイミングで実施するか」を考えることをおすすめします。