就職先の決め手は「自らの成長」
雇用が流動化し、スマホを開けばあらゆる転職エージェントの広告が飛び込んでくる現代。若い世代ならその気になれば、次の仕事の選択肢はいくらでもあります。ひとたび「成長できない」となると、異動や昇進を飛び越して「転職」と考えるのも、当然だろうなと思います。
仕事や会社を選ぶときには「自分が成長できているか」を重視する──。この傾向はデータでも顕著です。リクルートの就職プロセス調査(2022年卒)PDF によると、内定を得た就活生が「就職先を確定する際に決め手となった項目」として挙げたものの第1位は、3年連続で「自らの成長が期待できる」でした。これは、希望する地域で働ける(第2位)、自分に合う人と働ける(第3位)のいずれをも10ポイント近く上回っています。
「自身の成長」をファーストプライオリティに選んで入った会社にもかかわらず、ひとたび「ここでは成長できない」と感じるようになると離れてしまうのは、自明でもあるのです。
雇用流動化時代の必然
注目すべきは「ここでは成長できない」と感じたときの次の選択肢が、部署の異動や担当の変更ではなく、一気に転職になることです。
その背景には、雇用が流動化する社会で人生100年を生きていくことへの切迫感があります。
もはやトヨタでさえ「終身雇用難しい」(2019年、豊田章男社長)と表明する時代です。いつ労働市場に放出されるか分かりません。そんな中、1つの会社でジェネラルにいろんな仕事をこなす総合職として“最適化”してしまうことは、時にリスクにもなり得ます。キャリアの踊り場で、社外に成長の場を求めたくなる気持ちは十分理解できます。
実際、コロナ禍で採用控えが起きた2020年を除き、転職率は近年、年々上昇。6割以上が転職活動を経験しているというデータもあります。
そもそも、終身雇用・年功序列は、モノを作れば作るほど売れた、高度経済成長期に最適化された雇用制度です。先の見えない低成長時代である今は、会社に人をマッチさせるのではなく、仕事に人をマッチさせる「ジョブ型」の考えが、ますます浸透することは間違いないでしょう。ジョブ型社会では、働き手も自分の専門に応じた仕事を求め、会社を渡り歩くことがデフォルトになります。そして、働き手もそのために自律的なキャリアをつくることがマストです。新卒で入った会社に定年までいるイメージを持たない若い世代ほど、その志向は顕著です。
とはいえ、次々に人が流出するようでは、企業として事業を継続すること自体が困難です。少子高齢化で人手不足が課題となる中、「離職」や「採用難」は多くの会社で経営、人事の共通の悩みです。とりわけ若年層の人口はこの20年あまりで大きく減っています。団塊ジュニア世代が20代だった1995年の20代人口は1875万人に対して、2021年の20代人口は1264万人。この20年あまりの間に、千葉県人口に相当する規模で20代は減ったわけで、優秀な人材を採用しようと思うともはや争奪戦です。
こうした時代に良い人材を採用し、働き続けてもらうために、企業はどうしていけばよいのでしょう。そこでカギを握るのが、本連載のキーワードでもある人的資本という考え方、つまり人への投資です。