ロールモデルがないブランディングデザイナー。独自で教育体制を構築
──そもそもブランディングデザイナーは、一般的なデザイナーとどういった点が違うのでしょうか。
西澤明洋氏(以下、西澤) ブランディングデザイナーは、ロゴやWebサイト、商品パッケージなどのデザイン制作だけでなく、それを生み出す企業自体の経営的な背景からコミットし、ブランドの一員としてブランディングデザインを伴走します。上流から下流までクライアントと共創していくことで、一貫したブランディングデザインを行うのです。
ただ、一般的なデザイン業界では分業制が主流なのですが、当社はいわば“逆分業制”。経営戦略やブランディング戦略、商品の企画もデザインの範ちゅうであると捉えているため、従来のデザイナーとは違う働き方が求められます。
──ブランディングデザイナーを育成するために、どのように教育体制を整えていったのでしょうか。
西澤 ブランディングデザインというジャンルができて間もないため、ブランディングデザイナーのロールモデルがあるわけではありません。そもそも美術系の大学などに、経営戦略の立案や商品の企画の立て方などを学べるカリキュラムもない。そのため、僕自身が現場で培ったブランディングデザインのノウハウを共有していくことが、ブランディングデザイナー育成につながると考えました。
特にデザインは暗黙知の固まりみたいなもの。ノウハウを共有するためには、その暗黙知をどんどん形式知化していくところに意識を向けたのです。そこで生まれたのが「フォーカスRPCD」や「ブランディングデザインの3階層」といった、プロジェクト推進やデザイン構築のためのフレームワークです。
さらに、5年ほど前に「仕事の因数分解」という社内のイントラネットを作成し、当社の仕事を全て言語化しました。各役割や業務のタスクを詳細にまとめただけでなく、プロジェクトにおける戦略の考え方やクライアントに対する振る舞い方、実際のプロジェクトでよくある落とし穴など、丁寧に言語化して、仕事の因数分解を通じてシェアしています。
先輩のブランディングデザイナーの暗黙知を「見て学べ」とか「やって学べ」でもいいのですが、これだと非効率すぎるのです。実際、8割くらいは「見て学べ」「やって学べ」になってしまうのが現実ですが、2割程度学びのベースがあるだけでも根性論の教育から抜け出せます。スタッフには最短距離でスキルアップしてほしいと思っているのです。
ちなみに「仕事の因数分解」は、6~7人ぐらいのスタッフと1年ぐらいかけてつくったのですが、そのくらいの工数をかける価値があったと自負しています。後から入社したスタッフは全員「仕事の因数分解」ですごく効率的に学べるようになりましたからね。