なぜ、いま、リスキリングが重要なのか
リスキリングが重要になった背景の一つには、「テクノロジーの進展」があります。デジタル化に伴い、企業のあり方自体が変化を求められ、その速度は上がる一方です。企業は創業時と同じ事業を継続するだけでなく、新しい事業に取り組んでいかなければなりません。またそのためにも、従業員に新しい仕事のスキルや進め方を身に付けてもらうことが、ますます重要になっています。
個人に目を向けると、「人生100年時代」を迎え、会社の寿命よりも個人の働く期間のほうが長くなっています。これまでは、入社時の研修をベースに、自部門で経験を積み重ねることで出世をめざす道が主流でした。ですが、キャリアアップの選択肢が多様化し、新たな専門性を節目ごとに身に付ける必要性が高まってきました。こうしたことからも、世の中の変化に対応し、人材価値を高めるリスキリングが求められているのです。
なお、リスキリングと同様に社会人の学び直しを指す言葉に「リカレント教育」がありますが、両者の間には次のような違いがあるととらえています。リカレント教育は「個人主体」で行われ、中長期的に自分の好きなことを学び続けるもの。生涯学習の一つの手法であるため、大学や大学院といった教育機関が主体となります。それに対し、リスキリングは企業の生き残りをかけた変革ニーズに基づくものであるため、「企業主体」で行われるものです。キャリアの大きな変化に短期間で対応するという意味合いもあり、講座は主に民間企業が提供します。
また、リスキリングは個人のキャリアの「転換」を伴うときに実施されるものであることもポイントです。具体的には、職種転換、他の部門への異動、昇格といった場面です。
リスキリングコストは新規採用コストの約6分の1
企業を取り巻く環境は2~3年で変化します。それに対応するため、企業は組織内のスキルを高め続けなければなりません。その方法には2つあります。1つは、人材を新陳代謝させることです。ただし、優秀な人材は人材市場で引っ張りだこであるため、採用は容易ではありません。もう1つの方法は、既存社員に新しいスキルを身に付けるよう促すことで、これがリスキリングです。デロイトのHRテクノロジーの第一人者として有名な人事コンサルタント、ジョシュ・バーシン氏によると、従業員へのリスキリングコストは、新規採用コストの約6分の1で済むそうです[1]。これは組織が従業員のリスキリングにリソースを割いて取り組むことの合理性を物語っています。
2021年に発表されたキラメックスの「企業のリスキリング実施に関する調査」によると、約80%の企業が人材のリスキリングに取り組む予定だといいます。かなり大きな数字ですが、本来は100%になるべきでしょう。
注
[1]: Forbes Japan「コストは採用の6分の1 政府も1兆円投資の「リスキリング」とは?」