森 康真(もり やすなお)氏
株式会社ギブリー HRTech事業部 カスタマーサクセスチームマネージャー
北海道大学工学部情報工学科 卒業、同大学院情報科学研究科修士課程 修了。SAPジャパン株式会社にて人事コンサルタント、株式会社野村総合研究所にて、アプリケーションエンジニアを経験。株式会社ワークスアプリケーションズでは採用担当として数々のプロジェクトに関わり、特にエンジニア採用リーダーとして先進的な採用手法を確立する。2019年3月より株式会社ギブリーに参画。これまでのエンジニア/人事/コンサル経験を生かし、カスタマーサクセスチームマネージャーおよび研修講師として業務に当たる。
スキルアセスメントによって得られる3つの効果
「採用した人材のスキルはどのようなレベルなのだろうか?」「実施した研修で、狙い通りのスキルを習得させられたのだろうか?」「そもそもどのようなスキルが必要なのだろうか?」といった悩みを抱えるITエンジニア(以下、単にエンジニア)の採用・育成担当者は多いという。
“スキル”と一口に言っても、その言葉に含まれる意味は多岐にわたる。データやデジタル技術に対する理解、社会や顧客の変化に対する理解、そして新たな価値を生み出すためのマインドセットも必要だ。
このような多岐にわたるスキルを評価・育成していくためにまず必要なのは「自社にとって重要なスキルを定義すること」であり、さらに研修施策によって狙いどおりにそれらのスキルを育成できたのかを「アセスメントする環境を整えること」で、エンジニアの採用・育成担当者が抱える悩みの解消につなげられる――そう説く森氏は、「スキルの定義」と「アセスメントの実施」による効果として次の3点を挙げた。
①研修を通じた到達スキルについて、ステークホルダー間で合意ができる
育成を担当する人事と現場のエンジニアの間で「物差し」を共通化することで、「いつまでに」「どのレベルまで」育成すればよいのかについて合意形成ができ、ゴールに対する認識のズレを防げる。また、新人だけでなく全員のスキルレベルを計測し、年次や役職によって必要な到達レベルを把握することで、今後のキャリア形成支援にも活かせる。
②階層別研修を実施できる
慢性的に人材不足であるエンジニア。多くの企業が未経験者も採用せざるを得ない一方、中にはコンピュータサイエンスやプログラミングを学んできた経験者もいる。このようなスキルレベルに差がある状態で一律の研修を行うと、経験者は退屈し、未経験者はついていけなくなる。
しかし、研修前にスキルアセスメントを行えば、点数によって「未経験者層(下級)」「経験者層(中級)」「TOP層(上級)」に区分し、習熟度に応じたカリキュラムを提供可能になる。研修効果も高められる。
③研修効果を可視化できる
研修の前だけでなく後にもスキルアセスメントを行うことで、その研修によって意図したようにスキルが伸びたのかどうかを可視化できるようになる。同一人物についてスキルの伸びを確認するだけでなく、同じ研修を受けた前年度の研修生など異なる母集団と比較することで、研修効果をより客観的に把握できる。また、業界別や同業他社の受験データとも比較できる。
エンジニア人材のスキルはこうして可視化する
次に、森氏はエンジニア人材のスキルを「テクニカルスキル」と「自走力スキル」に分け、それぞれのアセスメント方法について話を進めた。
まずは「テクニカルスキル」について見ていこう。
テクニカルスキルを測るタイミングは、入社前・研修期間中・研修終了後の3回が望ましい。入社前の事前スキルアセスメントでは、採用時点でのスキルレベルを計測することで、研修カリキュラムのカスタマイズや、階層別研修のクラス分けにデータを活用できる。研修が始まったら(研修期間中は)こまめに習熟度チェックテストを実施し、その結果をもとにフォローアップを行うことで、習熟度の向上を狙う。そして研修終了後に事後スキルアセスメントを行い、カリキュラム全体を通した習熟度を総合的に計測。配属の検討や配属先への申し送りレポートとしてデータを活用する。
では、テクニカルスキルのアセスメントをするためには、どのような問題を作ればよいのだろうか。森氏が絶対にやってはいけないと指摘したのは「事前・事後のスキルアセスメントをまったく同じ問題で実施すること」だ。なぜなら、多少時間を空けたとしても、同じ問題であればやさしい問題の解法や答えを覚えていて、残った時間を初回は解けなかった難問に充てられるようになるため、本当は理解度が高まっていなくても、事後のほうがスコアが上がってしまうからである。
「ぜひ難易度が近い類題を用意して、事前・事後で異なる問題を使ってアセスメントをしてもらいたい。同じ設計思想で作成した類題の解答データを蓄積し、統計的に類題としての妥当性を証明できれば、より高い精度のアセスメントが可能となります」(森氏)
事前・事後で問題を分けなければならないことは分かったが、具体的にどのような問題が良いのだろうか。エンジニアのスキルを測定するためには、やはり基本情報技術者試験のようなカテゴリ別にまんべんなく知識を問うものが望ましい。カテゴリによって弱いところが見えれば、「この辺りをもう少し勉強したほうがいい」とアドバイスができるし、逆に強いところが分かれば、配属先の検討材料にもなるだろう。
そして、エンジニアのテクニカルスキルをアセスメントするうえで欠かせないのが、コーディングスキルの問題である。クイズ形式の点数がいくら良くても、実際、現場に入ってみるとコードが全然書けないようでは困ってしまう。森氏は「アルゴリズム実装だけでなく、さまざまな部門で使用されているSQL実装やフロントエンド実装のスキルも合わせてアセスメントすることが効果的です」と語る。
おもしろいことに、クイズ形式では正規分布になるが、実装形式になるとV字型になるという。実装問題では得手・不得手が明確に見えるため、その人のスキルを活かした配属先を決めたい場合には、より有益なデータが得られるのだ。
続いて「自走力スキル」について見ていく。
エンジニアの研修は長くて3ヵ月間。テクニカルスキルの習得には年単位の期間を要するため、当然、この短い研修期間だけで身に付く知識は、ごく限られたものとなる。したがって、配属後にいかに学び続けられるかが極めて重要であり、「自ら調べる・自ら学ぶ・自らアウトプットする」ために必要なのが自走力スキルと総称されているものなのだ。
自走力スキルを分解すると、質問力・理解力・表現力・論理思考・OSの理解・タイピング力・Officeツールのリテラシーなどが含まれるが、中でも森氏が重要視しているのは、自ら「問いを立てる」能力だという。この問いを立てる能力を測るために、同社は解説文を読ませ、それに対していくつ質問を作成できたかを問うといった問題を用意している。
「エンジニア人材にテクニカルスキルと自走力スキルの2つが求められているのであれば、テクニカルスキルが高い人材は自走力スキルも高く、逆にテクニカルスキルが低い人材は自走力スキルが低いのかと考えてしまいがちですが、1000名弱のデータをプロットしたところ、この2つの間には相関はありませんでした」と森氏は明かす。
重要なのはここからだ。テクニカルスキルと自走力スキルのスコアを4象限で分けた上で、研修のクラス分けやフォローアップ方法を変えていくのである。
次図の右上は、テクニカルスキルも自走力スキルも高い「ハイスペック層」。この層には研修中に教える側に回ってもらうことで、よりその力を引き出すことが可能となる。逆に、左下のテクニカルスキルも自走力スキルも低い「フォローアップ層」には、最も手をかけて属人的に引き上げなければならない。
最も学習に対する伸び代があるのが左上の「ポテンシャル層」だ。現時点でテクニカルスキルは低いが、自走力スキルは高いため、学習機会さえ与えれば伸びていく可能性が高く、ハイスペック層と教え合うアクティブラーニングを取り入れることで、互いに高みを目指すことができる。
エンジニアとしての基礎能力が分かるスキルアセスメント「SEスキル検定」
ここまで、エンジニア人材に求められるテクニカルスキルと自走力スキルのアセスメント方法について紹介してきた。エンジニア人材の育成にはアセスメントが重要であるとはいえ、「自社でどう取り組めばよいのか分からない」という人事担当者も少なくないのではないか。そのような人に向けてギブリーが提供しているのが、エンジニアスキルを網羅的にアセスメントできる「SEスキル検定」だ。SEスキル検定には、難易度の異なる2種類がある。
このSEスキル検定は、基本情報技術者試験にはない実装問題により、コーディングスキルまで測れるのが最大の特徴である。対応言語はC・C++・C#・Java・Python・PHP・Rubyなど15言語以上。いつでもどこでも受験でき、採点結果もすぐに分かるため、手軽に導入できる利点もある。研修の効果測定や人事データとしての活用に最適化されているため、人的資本経営においても一役買ってくれるだろう。
SEスキル検定は、受験者数の上限なし、初回完全無料で受験できる。自社のエンジニア人材の現状を把握して、他社や他業界の結果と比較してみることで、次の採用計画や育成計画に活かせるはずだ。
さらにギブリーでは、エンジニアの育成プランの設計から、研修の運営、振り返りの効果測定までを網羅したHRプラットフォーム「Track」も提供している。「企業ごとにカスタマイズしたエンジニア研修のほか、単元別に参加できるオープン型のエンジニア研修も用意しています。スキルアセスメントと研修の掛け合わせで、より高い学習効果を手に入れていただければ」と語り、森氏はセッションを締めくくった。