リクルートマネジメントソリューションズは、人事業務に携わっている管理職以上の社員325名に対し、「人事データ活用に関する実態調査」を実施した。
「指標として把握している人事データ」「人事データ活用場面」「人事データ活用の役立ち度」「人事データ活用の課題」など、調査結果から見える実態について、同社は以下のように伝えている。
把握しているデータは「従業員エンゲージメント・満足度」が最多
まず、活動のプロセスや成果を測定するデータとして「現在把握しているもの」を質問した。本社人事・部門人事ともに「1.従業員エンゲージメント・従業員満足度・コミットメント」(本社人事68.3%、部門人事60.2%)が最も高かった。次いで、「17.時間外労働時間」(同59.9%、60.2%)、「18.有給休暇取得率」(同60.4%、55.1%)、「2.経営・リーダーシップに対する信頼度」(同54.6%、55.1%)、「20.離職率」(同 51.5%、41.8%)が多く、本社人事と部門人事の間で有意差はなかった。
一方、「生産性・コスト」「多様性」「採用」に関する指標は、本社人事の選択率が高かった。役割によるモニタリング指標の違いがうかがえる。
人事データ活用で取り組んでいるのは「ストレスマネジメント」が最多
次に、人事データ活用の場面について「すでに取り組んでいるもの」を聞いた。本社人事・部門人事、ともに「14.ストレスマネジメント」(本社人事55.5%、部門人事48.0%)が最多であった。制度として定着してきたストレスチェックのデータ活用や、コロナ禍において従業員のコンディション把握が進んできたことが表れていると同社は述べている。
続いて多かったのは「11.従業員のエンゲージメント・働きがいの実態把握」(同48.0%、41.8%)であった。また、「4.成果を上げている管理職・一般社員の特徴把握」(同47.1%、42.9%)、「10.従業員のスキル・能力の把握」(同47.1%、42.9%)といった、従業員のパフォーマンスを高めるための取り組みも多く選択されていた。
役割によって有意差が確認されたのは「1.応募書類・面接評価・適性検査データなどを用いた選考プロセスの振り返り」(同48.0%、29.6%)、「5.昇進選考時の評価と昇進後の活躍の関係分析」(同38.8%、25.5%)、「6.適材適所のための候補者や異動先のレコメンデーション」(同 37.4%、27.6%)、「8.研修効果の測定」(同38.3%、27.6%)であった。いずれも本社人事の選択率が高い。採用、配置といった全社としての人材パイプラインや、研修効果など生産性に対する関心の高さがうかがえる。
人事データ活用の役立ち度が高いのは「人事業務の効率化」
人事データ活用は総じて、「人事業務の効率化」「経営・人事の意思決定の質の向上」「従業員経験の質の向上」の順に役立ち度が高いことが分かる。
「役立っている」「やや役立っている」の選択率を見ると、本社人事・部門人事ともに「1.人事業務の効率化」(本社人事60.5%、部門人事46.0%)が最も選択されており、「4.人事施策の検証や改善」(同54.8%、40.2%)が続いた。
本社人事では「2.経営・人事の意思決定支援」(同54.8%、33.3%)も同じ選択率である。また、両群ともに「7.従業員の主体的な選択のサポート」(同44.8%、32.2%)の役立ち度が最も低い結果となった。人事業務の効率化に成果を感じつつある一方、現場の従業員に役立つデータとして活用できている企業はまだ少ないようだ。
人事データ活用の課題「人事スタッフの分析・活用するスキルが足りない」
人事データ活用の課題について、役割別にみると、本社人事・部門人事、ともに「5.人事スタッフの分析・活用するスキルが足りない」(本社人事37.9%、部門人事35.7%)の選択率が最も高かった。有意差があったのは「13.結果の変化に一喜一憂してしまう」(同 8.8%、2.0%)、「14.社内への開示内容、範囲の判断が難しい」(同35.2%、 25.5%)、「15.社外への開示内容、範囲の判断が難しい」(同15.0%、7.1%)であった。本社人事は、開示に関連した課題とそれに付随すると思われる反応に関する選択率が高かった。
また、人事データ活用役立ち度の高群と低群それぞれで、人事データ活用の課題について、選択率が高い上位5位までを表にした。高群で最も選択率が高いのは「14.社内への開示内容、範囲の判断が難しい」(高群43.3%、低群30.2%)であった。社内への情報公開やデータを用いた現場との対話を進める際に、人事データという性質上、配慮が必要な情報もある。効果的なデータ活用をするうえでの重要なポイントであるとうかがえる。
「5.人事スタッフの分析・活用するスキルが足りない」(同40.3%、50.9%)は低群で1位、高群でも2位の選択率であった。「2.経営陣の関心が低い」(同 32.8%、35.8%)も合わせると、上位5項目中3項目が共通している。これらは活用が進むからこそ生じる課題、活用をはばむ課題の両面があるようだ。
高群に特徴的なのは「9.従業員の協力を得るのが大変だ」(35.8%)、「7.社外の専門家によるアドバイスが必要だ」(32.8%)である。データ収集や活用場面で従業員に展開する範囲が広がること、分析・活用のレベルが高まることによるものだろう。
低群に特徴的なのは「4.経験と勘が重視され、データは軽視される」(34.0%)、「8.手間がかかるので、費用対効果を感じられない」(30.2%)である。データの有用性を社内で証明しながら活動を推進することの必要性がうかがえる。
活用のポイントは「目的や意図、問題意識をストーリーで語ること」
人事データ活用の課題について、自由記述を抜粋して紹介する。
「開示」について、社内に展開する際に上層部から順に降りてきて「なんの役にも立たない情報に変化」というストーリーが伴わないと、意味のない情報の伝達になってしまうというエピソードがあった。打ち手につなげられていないという「課題解決」に関する記述も多く見られた。分析だけをする、ただ結果を共有するだけではなく、経営や現場のどんな問題を解決したいか、どんなメッセージを伝えたいかという目的や意図、問題意識が大切ということだろう。
また、人事データ活用について、人事として感じる限界や、データだけでは分からないと思うことについての自由記述を抜粋して紹介する。
「データ」の捉え方として現場の実態と乖離があることに限界を感じたまま課題解決につなげられていないケースと、乖離がある前提で定性情報を含めて多角的に捉えて活用しているケースが確認された。課題として挙がっていた人事データ分析・活用スキルには、データ解析などのスキルだけでなく、各種人事データの性質を理解したうえで多角的に組み合わせ、現場と対話しながら、実効性のある解決策につなげる力が含まれているといえそうだ。
意識して学んでいるスキルは実践知や理論・学術的知見どちらも高い
次に、人事として意識して学んでいる知識・スキルを人事データ活用役立ち度別(高群と低群を抜粋)に示した。
高群では、「8.統計解析に関する専門知識」だけでなく、「1.自社の戦略・ビジネス」といった現場の実践知や、「2.人的資源管理論」「3.組織行動学」「6.心理学」などの理論・学術的知見についても有意に選択率が高い。会社の人事データ活用と人事に必要な知識・スキルの関係を直接示してはいないが、実践知と理論・学術的知見をあわせもつことの有効性が示唆される。
また、理論や学術的知見の活用に対する考えを見ると、群間で差が最も大きいのは「1.現場で起きている現象への理解を深める際に参考になる」で、 高群では7割を超える選択率であった。定量・定性など多角的なデータを活用して現場の実態を捉える際に、理論や学術的知見を参照しながら理解を深めていくことが、実効性の高いデータ活用のポイントとなりそうである。
なお、調査の概要は次図のとおり。
【関連記事】
・JTが人的資本経営を支援する「パナリット」を導入、人事データ集計・レポーティングを効率化―パナリット
・データをもとに人材・組織戦略策定や人的投資判断を支援するコンサルファームを設立―ネクストエデュケーションシンク
・従業員データに基づいた人員配置検討が行える新機能「配置シミュレーション」を提供―SmartHR