多様化する海外赴任者と、円安で増える負担
海外赴任者は、赴任元である日本企業の海外勤務者規程に基づき、海外勤務に伴うさまざまな手当や現物給与(住居、子女教育費、医療費、一時帰国費、その他)の提供を受けています。
海外展開の歴史が長い企業は、海外赴任者を送り出す経験が豊富であることから、必要事項が網羅された海外勤務者規程を整備しています。しかし、大幅な円安により、日本以上に物価上昇率が高い国では、医療費などが上昇し、会社や本人の負担額がこれまで以上に増えています。さらに、円建てで決めている海外赴任者の給与は以前と比べて大きく目減りしています。10~20年前の海外赴任と比べて、生活のゆとりは小さくなっているのが現状です。
また、海外赴任者の多様化が進み、「日本人男性が専業主婦と子供を連れて海外赴任する」という単一の赴任者像が必ずしも当てはまらなくなっています。場合によっては、赴任中の子育てサポートが必要なケースもあるようです。
海外赴任者の医療費、保険でカバーできない場合は?
では、海外赴任者に対する処遇・税務の実態について、調査結果を基に企業の対応状況を見ていきましょう。まずは、「海外赴任者の医療費」についてです。
- 地域別加入医療保険の種類
- 赴任国が中国、タイ、インド、英国、米国の場合、それぞれの国でどのような保険に加入しているかを調査しました。米国以外は、いずれの国でも海外旅行保険の利用率が高いことが分かります。とくに中国、タイ、インドでは、回答企業の75%以上が海外旅行保険を利用しているようです。
- 保険でカバーできない医療費
- 海外旅行保険や公的・民間医療保険などでカバーされない医療費について、回答企業のうち65%が、その全額または一部を会社負担していることが分かりました。
- また、これらの企業に対して、「保険でカバーできない歯科治療費が200万円かかかった場合、会社が負担する額」を聞いたところ、会社負担額の平均値は126万1831円、中央値は140万円でした。同様に、「歯科治療費以外の医療費」も質問したところ、平均値は128万1244円、中央値は160万円でした。「出産費用」は平均値が115万992円、中央値は150万円と、かかった医療費の7割前後を会社負担していることが分かります。
- 医療保険料や医療費の最終負担者
- 海外赴任者にかかる医療保険料や医療費について、赴任元の日本本社か赴任先の現地法人のどちらが負担しているのかを調査しました。その結果、「赴任元である日本本社が当該費用を負担している」と回答した企業は、医療保険料では55%、会社負担では51%でした。
- 会社が負担した医療保険料や医療費の赴任先での所得税申告状況
- 会社負担した医療保険料や医療費は、赴任者への「経済的利益」として所得税の課税対象になることが一般的です。そのため、これら保険料や医療費を赴任先の国で個人所得税の課税対象に含めているかを質問したところ、「申告が必要な国や地域では必ず申告」とする回答は、保険料は43%、医療費は41%と、回答企業の半数以下にとどまりました。
以上が海外赴任者の医療費に関する主なポイントです。赴任者数が多い企業ほど、海外赴任者の医療費は現地法人負担とし、現地での申告も正しく行う傾向にありました。
また、多くの企業が、医療費や保険料の高額化、医療費精算作業の煩雑さを課題として挙げていました。さらに、日本において不妊治療が健康保険適用内となったことから、海外赴任者に対して、高額になりがちな不妊治療費をどこまでサポートするのかも課題になっているという声がありました。