年下上司・年上部下が増えた理由——年功序列から成果主義へのシフト
1990年代のバブル崩壊と同時に、日本企業では成果を求める評価制度が導入され、それまで主流であった年功序列型組織に代わり、成果主義型組織が増えました。それに伴い、これまではあまり存在しなかった「年下上司・年上部下」が各所に存在しはじめました。
また、元気なシニアが増えて定年が延びたのも、年上部下が増えた理由の1つでしょう。団塊の世代が60歳をむかえる2007年ごろから、「アクティブシニア」と呼ばれる、よく出かけ、仕事を持ち、趣味を楽しむ、とても元気なシニア社員が増えたのです。
定年制度の歴史を見ても、定年制度が世に広まり始めた昭和初期ごろの定年は55歳でした。当時の平均寿命は46歳前後となっており、まさに「終身雇用」の名のとおりの年齢設定です。そこから定年年齢は、1980年代には努力義務として60歳に引き上げられ、2000年には65歳までの雇用確保措置が努力義務に。2006年には65歳までの雇用確保措置が義務化され、2013年には65歳までの継続雇用が企業に義務化されました。
こういった背景により年下上司・年上部下が増え、職場は「上司・部下が互いに、これまでにない戸惑いを感じながら働かないといけない環境」へとシフトしたのです。
互いに「やりづらさ」を感じている年下上司・年上部下
企業でコミュニケーション研修を行うと、受講者から「ふだん、何気なく話すときの接し方は気にならないけれど、仕事になると接し方が難しくなる」といった声をよく聞きます。
特に、年下上司・年上部下の関係では、「感覚の違い」が大きいようです。たとえば、年上部下にとっては当たり前である「義務感」は、年下上司には分かりづらく、仕事を進めるうえで次のようなギャップが生まれています。
- 自分らしさを押し殺して「YES or はい」しか返事できない世界で、組織や上司に合わせることを大切にしてきた年上部下と、自分の強みや個性を発揮して仕事をすることに幸福を感じる年下上司
- 取引先や上司との付き合いを「義務」としてきた年上部下と、必要に応じた関わりを選択して場合によっては断ることもある年下上司
こういったギャップがある中で、年下上司は、マネージャーとして「目標達成の維持」「エンゲージメントの維持」といった役割を持っています。
しかし、年上部下とうまくコミュニケーションできないことで、協働のために必要な認識を十分に合わせられず、年下上司が「やってほしいこと」と年上部下が「できること」のすり合わせが曖昧になってしまい、年下上司の求める結果が出ないようなケースがあります。
これは、コーチングでもよくあるテーマです。なぜすり合わせが曖昧になるかというと、年下上司は成果主義のもとでそのポジションに就いているので、「年上部下よりも仕事ができないといけない」「できない・分からないと言いにくい」など、気軽に年上部下に相談を持ちかけにくい心境なのです。そして年上部下もまた、年上ということで事前に「できない」といえず、結果的に成果が出せない場合が多いのです。
加えて年上部下は、かつては自身も年下上司の立場を経験し、社内で活躍していました。しかし、ポストオフ後は報酬が下がることで、主体性が発揮できなくなったり、周囲との会話が減ったり、仕事へのモチベーションが下がったりと、日々の業務への張り合いを失ってしまいます。そんな中で、年下上司からの指示に耳を傾け、メンバーと協働して成果を出すことに疲れる人も少なくありません。
このように、年下上司・年上部下のどちらもが、年齢差によって仕事のやりづらさを感じてしまい、互いにパフォーマンスを発揮しにくい仕事環境が増えているのです。