今回の担当
荒川 陽子(あらかわ ようこ)
Great Place to Work Institute Japan 代表
(株式会社働きがいのある会社研究所 代表取締役社長)
2003年HRR株式会社(現 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業職として中小~大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織課題に対するソリューション提案を担う。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。2020年より現職。コロナ禍をきっかけに働き方と生活のあり方を見直し、小田原に移住。自然豊かな環境での子育てを楽しみつつ、日本社会に働きがいのある会社を1社でも増やすための活動をしている。著書に『働きたくなる職場のつくり方』(かんき出版)。
ヤッホーブルーイング:良いチームをつくることに徹底してこだわる
私がGPTW Japanに参画したのは2019年4月でしたので、初めて表彰式に参加したのは2020年2月、そろそろコロナ禍の足音が近づくころでした。
その表彰式の日、私はある企業からの参加者に目を奪われました。周囲はスーツやジャケット着用で、比較的フォーマルな装いの方が多い中、なんと、缶ビールを模した全身被り物を着て会場に到着された参加者の方がいたのです! その企業こそ、ヤッホーブルーイング(中規模・製造業)です。「働きがいのある会社」ランキングの常連企業ですが、聞けば毎年、表彰式に被り物をしてご参加されているとのこと。初めて拝見したときには驚きましたが、まさに、従業員の好き・楽しい・おもしろいを大事にする社風を体現されているのだと納得しました。
このようなヤッホーブルーイングの社風はどのようにして形づくられたのか。そして、働きがいのある会社ランキングの常連として、常に高い働きがいを実現しているポイントは何なのか、取り組みを見ていきましょう。
ヤッホーブルーイングは、クラフトビールのカテゴリー内で日本国内トップ。「ちょっと良いビールを楽しく、気軽に飲みたい」というニーズを取り込み、右肩上がりで成長を続けています。ただ、創業当初は8年間連続で赤字でした。なかなか利益が出ずに苦しんだと聞いていますが、ECチャネルを立て直したことをきっかけとして、インターネットを通じて全国のクラフトビール好きのお客さまに支持され、全国のスーパー、コンビニでも販売されるようになったのです。
しかし、そうして業績が好調になったこととは裏腹に、現場は急に忙しくなったことで不満をためていました。製造業では暑さや寒さと戦う重労働もありますから、オフィスで企画を考えている経営チームと現場との間に意識のギャップができてしまったのでしょう。つまり、経営と現場の相互理解が不足し、インクルージョン(包摂)が担保されていない状況になってしまったと推察します。
ここから、代表取締役社長の井手(直行)氏は「良いチームをつくる」ということに徹底的にこだわります。働きがい改革を進めていくためには、まずミッション・ビジョン・バリューの明確化とその浸透が欠かせません。その活動を、チームビルディングという手段を通じて実践していきます。
井手社長は「全員が同じ方向を向くことは簡単ではありませんし、価値観が合わない従業員は去っていきました。その一方で、私たちの価値観に共感して入社する従業員も増えています」とおっしゃっています。職場の多様な人材がお互いの個性や価値観、考え方を認め合うインクルージョンを担保しつつ、ビジョンの実現に向けてメンバーを束ね、共に目指す姿を実現したいと思える強いチームを作ること。これをチームビルディングというキーワードの下に両立していったプロセスは、働きがい改革の有効な方法を示してくれています。
また、自ら課題を発見し解決したいという従業員が経験・所属部門に関係なくプロジェクトを立ち上げ、他の従業員は手を挙げれば誰でもそのプロジェクトに参加できる制度があり、新しい取り組みを「やってみたい」と思っている従業員に任せているということも、注目すべきポイントです。従業員1人ひとりのやりたい・やってみたいという思いを大切に、好き・楽しい・おもしろいを仕事上で感じられる工夫をしています。
働きがいは「働きやすさ」と「やりがい」から成ると我々GPTW Japanでは定義していますが、やりがいに火をつける好事例といえます。冒頭の表彰式も、楽しい・おもしろいを体現されたエピソードとして心に強く残っています。