「働きがい」も「働きやすさ」も求める若手
——近年、働きやすい職場なのに若手が退職してしまう「ゆるブラック」問題が話題です。20代の労働観の変化について、どのような背景があるのでしょうか。
田中秀哉氏(以下、田中) まず、成長志向の若手が増加傾向にあることが考えられます。不確実性の時代と呼ばれる現代において、将来のために実力を付けたいと考える若手が増えているのです。
一方で、法律の改正や働き方改革などで残業規制が進み、企業はハードな働き方を推奨できなくなっています。たくさん働いて成長したいと望む若手に対して、働きがいを提供するのが難しくなっているのです。
千葉純平氏(以下、千葉) 昔から、成長志向の若手もいれば、そうでない若手もいたと思います。ただ、働き方改革関連法が施行された2019年から、企業の働く環境は明らかに変わりました。働きたい若手に合う職場がどんどん少なくなっているのです。もっと働いて成長したいのに、この企業ではそれが叶わないので辞めようとする動きが顕著になった結果が、ゆるブラック問題だと捉えています。
——成長したい若手が増えている一方で、成長できる環境を準備できない企業が増えているのですね。
田中 そうですね。ただ、成長を求める若手も、働きやすさを求めていないわけではありません。働きやすさと働きがいの両方を求めているのがいまの若手の価値観なのだと思います。
働きやすい環境を整えた一方で、ゆるブラック問題が表れている企業に必要なのは、「若手を育てる」という姿勢でしょう。そもそも、働きがいを求める若手が辞めていく現状に対し、問題意識が欠けている企業が多い。まずは、経営層がその課題に気づいて意識改革を行うことが必要だと思います。そのうえで、人事部が課題を解消するための実務を行うべきなのです。
若手が成長できる企業には、「4つの環境」がある
——そういった問題意識を基に始まった取り組みがCSA賞だと伺っています。そもそもCSAとはどういったものなのでしょうか。
千葉 CSAとは、「CareerSelectAbility(キャリアセレクタビリティ)」の略で、日本語では「キャリア自己選択力」と表します。自分で主体的にキャリアを選べる力という意味ですね。「どこでも活躍できる力」にも言い換えられます。
日本では少子化などで労働人口が減少し、働く人の意識や企業の在り方の変革が迫られています。若手にチャンスを与えて育てる必要性が高まる中で、CSAが身に付く企業にフォーカスを当てることがCSA賞の目的です。
——これまでに11社がCSA賞を受賞しています。若手が成長できる企業の共通点はありますか。
田中 CSA賞の最も重要な基準は、「4つの環境」が整っていることです。「社内外に適度な競争があり、成長基調で活気がある」「20代からチャレンジングで困難な非定型業務を求められる」「性別、国籍、学歴、在籍年数に関係なく、実力で正当に評価される」「本業の商品・サービスで自社独自の主観正義性を実感できる」の4つの環境により、若手のCSA獲得が促進されると考えています。CSA賞の審査では、弊協会が準備した社員向けのサーベイでこれらの環境があるかどうかを可視化しています。