パネリスト
武田 雅子(たけだ まさこ)氏
株式会社メンバーズ 専務執行役員 CHRO
2008年、株式会社クレディセゾンにて初の女性人事部長、その後人事および営業推進事業部の担当取締役として、組織の風土改革を実施。2018年よりカルビー株式会社にてCHROとして働き方改革や社員の意識改革に取り組む。2023年より株式会社メンバーズにて専務執行役員CHRO、全員がリーダーシップを発揮する組織の構築を推進している。
西田 政之(にしだ まさゆき)氏
株式会社ブレインパッド 常務執行役員 CHRO(対談時)
1987年に金融分野からキャリアをスタートし、ファンドマネージャー、金融法人営業、事業開発担当ディレクターなどを担当。人事コンサルティング会社マーサージャパン株式会社を経て、ライフネット生命保険株式会社、株式会社カインズ等でCHROを歴任。2024年7月よりジャパン・アクティベーション・キャピタル株式会社のCHROに就任。
モデレーター
元田 有紀(もとだ ゆき)氏
株式会社SmartHR SmartHR Mag.元編集長
人事担当、ファッションアプリや子育てメディアの運営・編集担当、HR系SaaSのマーケティング担当を経て、2020年SmartHRに入社。オウンドメディアや導入事例など、さまざまなコンテンツを制作したのち、SmartHR Mag.編集長に就任。現在はサービスデザイン部 部長としてチームのマネジメントを務める。
「人的資本」がすべてだと捉えないように
元田有紀氏(以下、元田) 上場企業を中心に機運が高まっている人的資本経営について、お2人はどのように捉えていますか。
武田雅子氏(以下、武田) 「人的資本経営」と聞くと、急にトレンドとなったような印象を受ける人も多いかもしれません。しかし、私にとっては、昔からやっていたことが今ようやくテーブルに上がってきたなと感じます。
たとえば、私が初めて取締役になった2014年は、人事に関する議題が経営会議の決議事項にまったくありませんでした。経営戦略を議論するのに、それを実行する人材について、どうあるべきなのか、そもそも人員は足りているのかといった話がされていなかったのです。経営会議で決めた戦略を実現するためには、人材戦略もどうあるべきなのか話されるべきだと思いました。そこで、経営戦略について話し合う最中に、「それってどう展開しますか。現状では人材が足りないですよね」と、投げ掛けるようにしたのを覚えています。
こういった動きがさまざまな企業で起こるようになったのが人的資本経営だと捉えています。
西田政之氏(以下、西田) 人的資本経営は確かに大切な部分ですが、それをすべてだと捉えないようにしています。
社員は企業に対して人的資本を提供する一方で、家族と過ごすといった生身の人間としての側面もあります。社員1人ひとりのことを考える際に、人的資本という言葉で表現できる範囲は限られるのです。僕ら人事は、人的資本経営だけでは語りきれない部分に対しても向き合っていかなければなりません。すべての課題が人的資本経営で網羅されており、人的資本経営に取り組めば解決すると思ってはいけないなと感じています。
CHROがいるから経営会議で人事の話ができる
元田 では、これまでにCHROとして行ってきた人的資本の取り組みを教えてください。
武田 カルビー時代、越境学習や副業解禁・受け入れなどさまざまなことを行ってきました。そこで感じたのは、人事のトップ自らが音頭を取ることが大切だということです。さまざまな施策のアイデアがあったとしても、いちメンバースタッフが提案して稟議に上げると、「ROIはどうなっているの」「業務にどのくらい役に立つの」といった質問に阻まれて、実現しにくい場合があります。
ただ、ROIや業務の観点では無駄に見えることでも、そこからイノベーションが生まれたり、アイデアが生まれたり、社員同士の交流の場になっていたりと、価値がある取り組みはありますよね。CHROがいることで、そういった施策が実現しやすくなります。人事領域の施策は、他部門の人たちにはできないことなので、人事として自信を持って堂々とやることを大事にしています。
武田 経営会議で人材について話してもらうことは大事ですよね。弊社でも、経営会議のアジェンダに人事の議題が多いときは、「今日は長くならないでね」と言われ、私が「それは皆さん次第です。私も10分で終わらせたいとは思っているんですよ!」と返すなどの冗談を交わしながら、結局は多くの時間を使うこともあります。人材に関して議論を尽くすことが大事なので、結論が出る前にちゃんと全員が言いたいことを述べているのか、冷静に見るようにしています。
また、CHROとしてボードメンバーのブランディングを担ったこともあります。社長は社員からどう見えているのかという観点ですね。たとえば、前職で大きな事業変革があったときに、社長にどういう言葉で社内外にメッセージを伝えるのかを広報と計画しました。
社長がとても良いことを言っても、言葉の使い方が下手だったり、組織が大きすぎたりすると、最もメッセージを届けたい人に届かないことがあります。そういうときに社内広報と連携して、きちんと情報流通が起きるように仕掛けていく。これも経営と現場をつなためには大事な役割です。