「経営戦略を起点に人材活用を考える」という新しい潮流が到来
世の中のデータの可視化と、その活用に欠かせないクラウドサービスを自社開発で提供し、コンサルティングとともに事業を展開してきたプラスアルファ・コンサルティング。マーケティングやカスタマーサクセスなどの領域で顧客情報を分析し、それらを売上向上や品質・サービス改善などに役立ててきたが、7年前から人事領域にも進出し、「タレントパレット」をリリースした。
望月氏は、「人事は単に業務としてではなく、人事戦略を実行することで組織のパフォーマンスを最大化することがミッション。そのためには、データを管理するだけでなく、社員のスキルや業務経験、将来目指すキャリアなどを『人材情報』として定義し、戦略的な最適配置や教育・育成、離職の防止、採用の高度化などに役立てていく必要がある」と語る。
つまり、適材適所による人材配置やリスキリング、エンゲージメント向上によって、社員のパフォーマンスを最大化することに加え、「経営戦略を起点として人的資本や人材活用を考える」という新しい潮流が到来しており、「適所適材」、場合によっては「適時適量」で人材戦略を考える必要が生じているというわけだ。また、そうしたことを実践する施策として「ポジションマネジメント」、さらに後継者の育成という観点で「サクセッションプラン」といったキーワードを耳にすることも増えている。
実際、3000社を超えるタレントパレットの導入企業では、たとえばメーカーの場合、技術者の力量やスキルの定量的把握が実施され、「5〜10年後の競争力の確保」を重要な経営課題としている。また多店舗で展開している流通・小売サービスなどの企業は、拠点が多いために社員同士の顔が見えず、思いを共有することなく、気づいたら離職率が上がっていたということから、「社員のエンゲージメントや満足度を高めたい」「多くの拠点について戦略的に最適配置を行いたい」という相談が増えている。それ以外にも、属人的人事だけではなくデータを武器とした「科学的人事」「人的資本経営」「ジョブ型シフト」「リスキリング」といったキーワードで相談が寄せられているという。
ただし、課題や優先度はさまざま異なるとはいえ、人材データの活用ステップの“初期”ではある程度共通している。その最たるものが、「人材データが部分最適的に存在しており、横断的に活用できない」というものだ。たしかに各業務の効率化には寄与するが、全社的な「戦略的人事」を実践するためにはバラバラのデータを見ていても、意思決定の精度は上がらない。
たとえば、評価と勤怠のデータを掛け合わせれば、「生産性が高い=ハイパフォーマー」を見極められる。研修受講と営業のデータをかけ合わせれば、「学習が成果に結び付いているか」を把握できる。
そこで、タレントマネジメントのあるべき姿として、望月氏は「従来データやシステムの壁が取り払われ、社員IDですべての情報がひも付いていること」を挙げ、「性質の異なるデータを掛け合わせて可視化できること、採用から入社後の業務経験や教育、評価を時系列で捉えられることが、情報活用基盤の要件となる」と示した。
人事情報を統合・分析し意思決定に活かす「人事情報活用基盤」
それでは人事情報の活用基盤として、「タレントパレット」がどのように活用できるのか。ログインすると社員の顔写真が並び、クリックすると蓄積している情報がひも付いていることが分かる。プルダウンメニューで複数の項目を選ぶと、その掛け合わせがマトリクスで表示される仕組みだ。
タレントパレットでは、人事評価の機能で評価運用を行うと評価データが蓄積されていく。また、勤怠管理システムとの自動連携で残業時間のデータを取得できる。そこからたとえば、残業時間×評価で一覧化することで、短時間で成果を上げている“ハイパフォーマー”を見つけ出すことができる。このときも顔写真をクリックすれば、サマリーページから異動や昇格の履歴、研修状況、スキル・資格、上司との1on1の記録、売上の推移など、ひも付けられた情報をすぐに閲覧できる。
望月氏は「データを一元化し、簡単に分析して可視化できることでペーパレス化も進み、検索作業や資料づくりといった業務の工数削減に寄与する。しかし、本来の目的は効率化ではなく『情報活用』にある。その観点で情報活用基盤を整備する必要がある」と訴えた。たとえば、人材の最適な配置、離職防止、エンゲージメント向上、人材育成など、企業の課題に応じて優先順位を立てたうえで選定することが重要というわけだ。
今後、こうした人材情報活用基盤には、人事情報などの「人事データ」に加え、適性検査や面談記録など人材の内面を表す「人材データ」、さらに売上などの「業績データ」、財務会計データなど人事以外の「非人事データ」が集約されていく。ここまで多様な情報が集約されると、「検索・活用にコツが必要ではないか」と懸念する方もいるだろう。これに対する有効なアプローチが「生成AIの活用」だ。
タレントパレットには生成AIが組み込まれており、蓄積した社員情報から社員の紹介文や、分析結果の解説文などを自動生成できる。また、資格などのキーワードのほか、自然文によっても社員を検索できるので、たとえば「新規事業に向いている人」というような検索でも、経験や適性など他の情報を組み合わせて結果を抽出できるという。さらに、職能で絞り込んだり、気になる人の紹介文を閲覧したりすれば、適切な人材登用に役立てられる。
望月氏は、「AIを活用するといっても、人事の意思決定を自動化してすべて委ねるというものではないと考えている。しかし、情報を自動的にまとめるなど、より人間が的確な示唆を得やすい形で表示されることで、業務の効率化に加え、より人の意思決定を高度化することに大きく貢献できる」と語った。近年では評価などにもAIを活用し、上司に部下の「頑張ったこと」をサマライズして提供したり、目標設定時にアドバイスしたりという機能として搭載したという。
人事情報と組織の情報をマッチングさせ“最適配置”に役立てる
続いて、蓄積した人材情報と組織の情報をマッチングすることで、最適配置に役立てる方法が紹介された。この最適配置においては、「人→組織」の適材適所、「組織→人」の適所適材の2つのアプローチがなされている。
まず異動候補者をどの部門に配置するかという「適材適所」というアプローチについては、異動シミュレーションによる「人材配置案の自動作成機能」が提供されている。たとえば、「3年以上異動していない人」「スキル能力が高い人」「異動を希望している人」を抽出して色分けし、その社員の写真をドラッグアンドドロップで動かすことで、視覚的に異動シミュレーションを実施できる。さらに、組織ごとの売上の変化や資格保持者数なども閲覧しながら最適配置に役立てられる。さらに、異動の結果を発令としてメールで告知する「発令管理機能」も搭載されている。
そしてもう1つ、実現したい経営戦略を起点として必要なポジションに誰を配置するのかという「適所適材」については、主要ポジションの候補者を抽出するために「ポジションマネジメント機能」や「社内公募機能」などが提供されている。ポジションマネジメント機能では、DX戦略部長やIT戦略部長など、今後の経営戦略を支えるキーとなるポジションを選定し、そのジョブディスクリプションに求められる能力やスキルやミッションなどを定義すると、条件別やマッチ度合いでのランキング順などで候補者を閲覧できる。
直近の異動だけでなく、3~10年後を見据えて「ポテンシャル人材候補者」を把握し、これを「タレントパイプライン」として管理するところも登場しているという。重要ポジションに対する人材の充足度を管理することで将来的なリスクを把握し、施策を講じることができるというわけだ。
また、重要ポジション以外の専門人材や新規事業人材についても、スキルを可視化し把握することが効果的な人材育成につながる。タレントパレットでは企業ごとにスキル情報をカスタマイズして登録できるようになっており、そこに本人が入力し、上司が評価することで、最新状態の人材ポートフォリオが出来上がる。これは今後の育成計画に役立てられる。
スキル情報を成長促進や採用活動にも役立てる
こうしたスキルの情報は社員自身や現場のマネジメントに役立つ。社員は、自分が目指すキャリアや目標に対しての不足を把握でき、過去との比較によって成長実感を持つことができる。それを支援するため、タレントパレットはラーニングマネジメントシステム(LMS)の機能を持っており、社員は自分が受けたい研修やeラーニングを視聴できる。この機能はすでに実施されている研修や外部の講座に加え、大手のオンライン学習サービスとの契約で受講履歴も取れるようになっているほか、受講してほしい人へのリコメンド機能も備わっている。
採用活動への情報活用の一例として、学生へのダイレクトリクルーティングサービスである「キミスカ」との連携が紹介された。キミスカには学生のデータベースが備わっており、企業側が必要な条件で学生を検索し、直接スカウトメールを送ることができる。さらにその候補者を、タレントパレットの採用管理機能で管理し、入社手続きからオンボーディング、最適配置までシームレスに行える。
また、キミスカとタレントパレットには共通の適性検査が用意されており、性格や行動特性などを数値化し、マッチングに役立てることで定着率も高めていけるだろう。
最後に望月氏は、「人材情報の一元化や人事評価システムの活用は大切だが、優先度の高い戦略に役立てられるようアウトプットすることが非常に重要だ。属人的な人事ではなく、データやAIを活用した科学的人事戦略を推進することが、今後の企業競争力向上には不可欠」と語り、「そのためのパートナーとしてお役に立ちたい」と述べて、セッションを締めくくった。