葛藤を経験させるために人事ができること
次世代経営層の育成では、より優れた経営層を目指して、これらの葛藤を乗り越える経験が重要です。では、このような葛藤を経験させるために、人事部としてどのような支援ができるでしょうか。次に、2つの施策を紹介します。
配置換えによる空間軸の揺さぶり
経営層には専門性が求められますが、それ以上に重要なのが「多角的な視点」です。1つの物事をさまざまな視点から見ることで、葛藤が生まれるからです。
当社では、次世代経営層候補の管理職をグループ会社の経営者に抜擢したり、これまで経験してこなかった部署に異動させたりしています。あえて、その人の持っている専門性が通用しない環境に身を置いてもらうことで、さまざまな葛藤を経験させ、多角的な視点を養うことを目的としています。
日常から離すことよる時間軸の揺さぶり
経営層には長期的な視点が求められます。私たちは、日常業務だけに向かう日々が続くと、「今」「目の前」という近視眼バイアスに陥りがちです。
当社では、次世代経営層候補の管理職を選抜し、「2030年までに時価総額を〇円にするための事業戦略を考えよ」といった課題を与え、経営陣に提案してもらう施策を行っています。日常業務から離れた課題を与えることで葛藤を経験させ、長期的な視点を養うことを目的としています。
おわりに
次世代経営層を育成し、優れた経営層として輩出するためには、さまざまな葛藤を乗り越える中で、自分なりの判断軸を持ち、自分なりの経営哲学を育んでもらうことが大切です。その過程で次世代経営層は、これまでの成功体験が否定されるような挫折を味わい、苦しむ時期もあるでしょう。ですが、それは「より高く跳ぶ」ために「かがんでいる期間」です。その先には、一皮も二皮もむけて見違えるほどに成長した「骨太な経営者」がいるはずです。
なお、本記事の冒頭で取り上げた当社の調査概要は次のとおりです。
- 調査名
- 「優れた経営層の特徴」に関する研究
- 調査対象
- 2015年1月~2021年12月に当社が提供するエグゼクティブサーベイを実施した累計84社1537名
- 分析方法
- 経営層に対する部下からの評価に着目し、当社が持つエグゼクティブサーベイを使用した360度評価の結果を集計。集計結果をもとに、エグゼクティブサーベイの総合スコアが「上位5%」「上位5~20%」「上位20~50%」「下位20~50%」「下位5~20%」「下位5%」である6群に分類し、群ごとに項目の偏差値ランキングを作成した。偏差値ランキングから上位5項目を抽出し、部下から評価される経営層の特徴を分析している。