仕事に限定せず、「長期的かつ幅広い視点で」キャリアを捉える
——サステナブルキャリアとは、どのようなキャリア理論なのでしょうか。その定義と解釈を教えてください。
これまでのキャリア理論は、「ワークキャリア」に偏っていました。たとえば、従来のキャリアの考え方では、自己分析と職業分析を行って、マッチする仕事を探すことだけを重視する場合がありました。このような場合、ワークキャリアとして焦点が当たっているのは、特に正社員としてのキャリアを設計して、実行していくことです。
一方、サステナブルキャリアは、個人の人生を長期的に捉えます。先行研究では「複数の社会空間を越境し、個人の行為主体性に特徴づけられ、個人に意味をもたらす、長期的な時間の経過に伴う多様なパターンを反映したキャリア経験の蓄積」[1]と定義されています。
人は家庭や友人との空間、市民としての空間など、時によってさまざまな空間に存在します。たとえば、これまではキャリアの「空白」だと捉えられがちだった離職・休職も、サステナブルキャリアでは多様なキャリアパターンの1つとして、有意義なブレイクだと捉えなおすことができます。
長い間日本で重視されていた、正社員としてのワークキャリアのみに注目するのではなく、長い人生をより幅広い視点で捉えるのが、サステナブルキャリアです。
——サステナブルキャリアを意識することで、個人のキャリア、ひいては人生にどのような影響があるのでしょうか。
サステナブルキャリアの考え方を取り入れることで、多様な選択肢を考慮したうえで、自分の望むキャリアを選べるようになると思います。
ワークキャリアだけを考えていると、「仕事が人生のすべて」となり、昇進や昇給ばかりを重視するマッチョイズム的な思考に傾くかもしれません。先ほどのとおり、人生には仕事以外にも多様な空間があります。ボランティアをしたり、大学院に通って学びを楽しんだりすることも、キャリアの楽しみ方の1つ。その中には、仕事だけにまい進することが幸せだという人もいるでしょう。
また、サステナブルキャリアは、「キャリアショック」の問題を乗り越える鍵にもなります。人生は予測不可能で、突然病気にかかることもありますよね。コントロールできない事態によって、個人が衝撃を受けることを、キャリアショックといいます。
たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大は、個人がどうにもできない予想外の事態でした。反面、リモートワークが浸透するなど良い面もありました。サステナブルキャリアは、こういった予測していない事態が起きても、それをキャリアを捉え直すきっかけとして「長期的に考えるとこういう意義がある」と考えます。
注
[1]: Van der Heijden and De Vos「Sustainable careers: introductory chapter」(2015)