社員のためのHRシステムにするために——能力開発を支援する仕組みづくりを
——スキルやキャリアビジョンを可視化した後は、能力開発を計画することになると思います。この点で、サステナブルキャリアの観点ではどういったことが重要になりますか。
まず、バックキャスティングとプランドハップンスタンス(計画された偶然性)の両輪で考えることが理想的です。
「5年後に自分はこうありたい」という未来のビジョンから逆算して、マイルストーンを置くのがバックキャスティングです。しかし、キャリアは予測不能な事態に左右されます。そこで、プランドハップンスタンスの考え方を取り入れ、偶然のチャンスを増やす取り組みも必要です。この2つの視点から、次の1年でどんな能力を開発したいか目標や計画を考えましょう。
そして、重要なのは、社員が立てたその目標を上司と共有すること。伸ばしたい能力や学びたいことをHRシステムに入力し、過去の経験やスキルを振り返りながら、上司と話し合う仕組みをつくることが望ましいでしょう。今の業務を能力開発にどう活かすのか、社外の活動ではどんな学びが得られそうか、上司はどんな支援ができそうか……といった議論を経て、さらに細かい計画に落とし込むのです。それをまたHRシステムに入力して社内に共有しておけば、他の部署のメンバーが見て、適切なプロジェクトに誘われるといったチャンスが巡ってくるかもしれません。
そのような場合には、キャリアの目標やスキルといったデータをもとに、HRシステムのAIが行動をレコメンドしてくれることも期待できます。今の時代、社内にも社外にも情報が溢れていて、適切な学習コンテンツを選ぶのも一苦労です。なので今後は、おすすめの社会活動やeラーニング講座、参加するべき社内のSlackチャンネルなどをレコメンドする機能が出てくるのではないかと期待しています。
そのためにも、社員個人の目標やスキルといったデータを用いて、HRシステムを活用できるとよいのではないでしょうか。
人材育成はもっとやりがいのある仕事になる
——最後に、企業の人材育成やキャリア支援を担当している人事の方へメッセージをお願いします。
ここまでお伝えしてきたとおり、これからはサステナブルキャリアの中で、社員個人の人生のパーパスを尊重していく時代です。これまでの企業は、従業員が会社に所属している間の体験だけを重視する傾向がありました。しかし、今後は入社前や退職後に社員がどんな気持ちで、何を指向しているか把握することが重要なのです。このような考え方は、従業員体験と呼ばれています。
つまり、社員個人の本当の気持ちややりたいことに寄り添って支援することこそが、これからの人材育成です。画一的な研修を運営するのではなく、社員1人ひとりが今どんなことを考えているのか理解したうえで、サステナブルキャリアの観点からサポートしていく。
そう考えると、人事が担う人材育成という仕事は、非常にやりがいがある仕事ではないでしょうか。それぞれのやりたいことや目標が実現できれば、社員が目に見えて幸せになっていくのですから。