求められるビジネスリーダーの4つの型とは
セッションのテーマである「ビジネスリーダーの養成」について、RINGNITE代表の岡安氏は、企業においてビジネスリーダーの養成が急務である背景から説明した。
「VUCA時代といわれて久しい現在。不確実性の高い環境において、経営から現場への要請が複雑化し、現場の実務実行の難易度も上がっている。経営と現場の間で不整合が発生しやすい状態にあるのがいまの状況です。そのため、経営と現場の『結節点』となるリーダーがビジネスの成功の鍵になるのです」(岡安氏)

岡安 建司(おかやす けんじ)氏
株式会社RINGNITE 代表取締役/創業者
大学卒業後、NTTコミュニケーションズ人事部にて人事制度企画に携わる。その後、マーサージャパンでの人事コンサルティング、人材育成ベンチャープレセナ・ストラテジック・パートナーズでの代表取締役CEOの経験を経て、イネーブルメント特化企業R-Square & Company(現Xpotential)を共同創業し、代表取締役COOに就任。2023年12月に同社を退職し、ビジネスリーダー養成を中心とした組織・人材開発サービスを展開するRINGNITEを設立。現在に至る。
では、どんなリーダーが求められるのか。4つのリーダー像が紹介された。
「戦術立案型」のリーダーは、既存事業のさらなる成長を目指し、組織全体の効果的な運営が求められるフェーズで必要になる。事業戦略実現のために管掌組織のリソースを活用し、戦術立案を行う。この型のリーダーに求められるのは、仮説構築や企画立案、他部署との関係構築力などだ。
「プレイヤー兼任型」のリーダーは、成果創出を第一とし、着実な目標達成に向けて事業運営を行うフェーズで求められる。プレイヤーとして自身も成果創出に向けて積極的に行動しながら、部下の目標達成に向けたマネジメントも担う役割だ。業務の遂行力や部下・顧客との対話力、傾聴力といったスキルが重要になる。
「新規領域開拓型」のリーダーは、既存事業を維持しつつ次の柱となるビジネスを模索していくフェーズで必要になるリーダーだ。役割としては、既存領域にとらわれすぎず、新たな市場の開拓やサービスの創出を担う。発想力やビジネス構築力、財務分析力といったスキルが必要だ。
「ビジネスプロセス構築型」のリーダーは、企業の内外環境の変化に伴って、既存リソースの中で新たな強みを見いだしていくフェーズで求められる。既存手法にとらわれずに組織全体を巻き込み、新たなプロセスの構築で付加価値を高めていくリーダーだ。そのために、プロジェクトマネジメント力や折衝交渉力、課題解決力などのスキルが求められる。

つまり、企業によって置かれている事業環境やフェーズが異なるため、求められるリーダー像も変わってくる。岡安氏は、「リーダーに対して画一的な育成を行ってしまっては、必要なスキルが身に付かない。どんなリーダーが自社に求められるのかを分析したうえで育成することが求められます」と指摘した。
「戦略人事キャンバス」でビジネスリーダーを着実に育成
では、自社に必要なリーダー像に向けて、どのような育成のアプローチが有効なのか。岡安氏は、多くの企業がリーダー育成において陥りがちな落とし穴として、「経営主導または現場主導に偏ったアプローチとなってしまっていること」があると指摘した。
「経営主導で幹部候補生を育成する取り組みはよくありますが、現場の実態を考慮せずに実施すると、現場は『目の前の業務でそれどころではない』状態で、対象者のモチベーションが下がってしまう。一方で、現場主導でリーダー育成する場合も、経営や組織・人事のサポートなく実行すると、人員や予算が間に合わず実現が難しいでしょう」(岡安氏)
そこで重要なのは、「経営と現場の要請を満たし、組織・人事の環境整備を通じてリーダー養成を実現すること」という岡安氏。経営・現場・人事の3つの視点を押さえてビジネスリーダー養成を実行するためのメソッドとして、「戦略人事キャンバス」を紹介した。

戦略人事キャンバスは次のような構図になっている。
- 経営の視点から、将来の戦略を想定し、必要なキャリアや人材要件を定める
- 現場の視点から、人員構成や社員の要望、実務課題といった現在の状況を把握する
- この両者の視点から戦略人事施策の方針を定める
- 人事の視点から制度との整合および運用の整備を行うことで、全体を支えていく
岡安氏は、経営の視点から人材要件を定義していく手順を、次のように説明した。
「中期経営計画を見据えた戦略想定がポイントです。その戦略を実現する主要キャリアを設定します。『この部門の部長が鍵になる』『この業務のスペシャリストが必要』といった、戦略実現の鍵となる役職・役割を定めるのです。そして、その人材に求められる行動やスキル、知識、マインドといった人材要件を作成していきます」(岡安氏)
このようなステップを踏むことで、自社に必要な人材要件を決定できる。岡安氏は参考として、RINGNITEで定義した「ビジネスリーダーに求められる6つの人材要件」を紹介した(次図)。


ただし、「先述の4つのリーダー像のどれを目指すかによって、この人材要件の濃淡も変わってくる」という。
続いて岡安氏は、現場の視点で取り組むべきことについて解説した。
まず行うべきなのは「人材構成の把握」。タレントマネジメントシステムなどを利用し、現状の人材が得意/不得意な領域を明確にする必要がある。さらに、退職率などから将来の人員変動を予測して、補完するべき役職・役割を把握する。
そのうえで、「キャリア要請や会社への期待など将来目指したい社員の要望を把握すること、現状の業務を実行するうえでボトルネックになっている実務課題を捉えることも必要になる」という。
戦略人事キャンバスについて最後に岡安氏は、「組織・人事の視点」について説明した。まず指摘したのは、「せっかくリーダー養成施策のいいアイデアが出てきても、実行責任が不明瞭だとやりっぱなしになってしまい、モチベーションも上がらない」ということ。
そこで、組織規程・責任権限、人事制度をあらかじめ決めておき、評価や報酬制度とリーダー養成施策の整合を取っておくことが重要だ。たとえば、サクセッションプランを実施した後の昇格条件などは、制度との矛盾がないように整備しておかなければならない。
また人事は、「運用ルールの整備」にも力を入れる必要がある。リーダー養成プログラムに参加した後の、異動や配属のルールが不明だと現場が混乱してしまう。また、リーダー養成がうまくいった場合の任用のルールなども想定しておかなければならない。
「組織・人事としては、制度や運用による実行支援をルール化まで含めて考えておくことがポイントです」(岡安氏)
戦略人事キャンバスで導かれる人事施策——2つの事例
岡安氏は、この戦略人事キャンバスを用いることで、「まずは要点だけでもいいので、経営の観点、現場の観点、組織・人事の観点から、戦略人事施策を可視化していくことがポイント」と語る。
そこで、戦略人事キャンバスを用いて人事戦略を作成した事例を2つ紹介した。
1つ目はある商社の事例。「数十年、基軸事業が安定しているいまのうちに、次の柱となる事業を模索している」という状況だった。最終的に導かれた戦略人事施策の方針は、次期社長を選抜するサクセッションプランの実施だ。この方針はどのような“経営の観点”から来ているのか。
「この会社は既存ビジネスを重視しつつも、新しいビジネスの発掘に注力し、中長期視点で成長基調に乗せていくような戦略をとっています。これを実行する主要キャリアは次期社長や執行役員。そして、その人材要件にはビジョン構築力や発想力が挙がってきた。結果として、これを反映したサクセッションプランの実施が方針となりました」(岡安氏)
さらに、“現場の視点”からは縦割りの事業遂行ゆえに、企業全体を見渡す視野を持ちづらいことや、環境変化の中でキャリアが想像しにくいといった課題が挙がっていた。そこで、“組織・人事の視点”からはこれらの課題を解消するため、組織横断の会議体を用意したり、そこでの議案を取締役へ付議したりといった整備を行った。
これら3つの観点を押さえたサクセッションプランを、コーチング支援を通じて対象者のモチベーションを補完しながら実施したという。

もう1つの事例は、自社開発製品を展開する業界のリーディングカンパニーの営業組織のケースだ。「新たなオンラインの営業組織を立ち上げ、販売チャネルの多様化を試みる」フェーズにおいて、戦略人事キャンバスを活用。「新規事業を担うキャリアパス設計」という戦略人事施策を策定した。
「経営の観点から、新たな販売チャネルの安定化と成功要因の他組織展開を図りたいという戦略想定があった。安定化の鍵となる部長層・課長層を強化するため、戦略を現場に落とし込む実行力や業務構力といった人材要件が要請されました」(岡安氏)
そんな中、現場の視点では既存の営業の成功体験にこだわる社員が多く、一方で若手社員は柔軟性が高いという状況が明らかになった。また、他業界のように新しい営業スタイルを身に付けたいといった社員要望も明らかになった。
そこでキャリアパス設計の施策として、1つ上の権限を付与したり、新たな業務経験を持たせたりする異動ルールの設定や、課長・部長の人材要件を明確にしてキャリア像を示すといった取り組みを行ったという。

RINGNITEが提供する人材開発のアプローチ
このように、戦略人事キャンバスを活用したリーダー養成では、企業戦略や現場要請を踏まえたうえで、制度や運用と連動させた人事施策を、優先順位を付けながら行っていく必要がある。
岡安氏は、「これらを実現するために、弊社ではさまざまなサービスメニューを用意しています」と紹介。最後に、RINGNITEが提供する組織・人材開発のソリューションについて説明した。
「今回紹介したビジネスリーダー養成、戦略人事実現のための組織・人材開発のコンサルティングだけでなく、従業員の実態を可視化するアセスメントやワークショップ、トレーニング、コーチングなどの各種育成施策の企画・提供なども承っています。必要な人材要件に照らして、カスタマイズしながら活用いただいています」(岡安氏)
さらにRINGNITEでは、サクセッションプランの導入支援や経営課題解決ワークショップの提供など、ビジネスリーダー養成に特化した支援も併せて提供しているという。
「詳細は弊社のウェビナーで紹介しています。キャリアパス設計や戦略人事キャンバスの具体化についてもお話ししているので、ご興味あればぜひご参加ください」(岡安氏)
戦略人事の推進・ビジネスリーダー養成に課題を感じている方におすすめ!

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