社員の“熱源”を増やすことで文化は変わる

野澤 こうしたキャリア支援の取り組みも、やはり続けてこそ意味が出てきますよね。とはいえ、実際に文化として社内に根付かせるのは簡単ではないと思います。そうした中、最近は何か変化の兆しのようなものを感じる場面はありますか。
渡邊 はい。確かに変化の兆しは感じています。特に「50代のキャリアを考える」といったテーマで発信すると、明らかに関心が高まっているのを感じます。これまでは「気になっていたけれど、誰に相談すればよいか分からなかった」という声も多かったのですが、最近は「ちょっとやばいかも」と自分事として捉える方が増えてきている印象です。
たとえば、55歳以上の方に向けた自由参加型のオンラインイベントなども、最初は70人程度の参加だったのが、今では200人を超えるようになっています。まだ小さな火かもしれませんが、これがやがていずれ大きなうねりになっていく。そんな期待を持っています。だからこそ、今は焦らず、粘り強く続けることが大事だと感じますね。
実際、こうした取り組みで一度に成果が出ることはありません。先ほどお話しした55歳以上向けのキャリア支援動画も、昨年度に続き今年も継続しています。「またか」と思う方もいるかもしれませんが、それでも繰り返し届けることで、少しずつでも“考えるきっかけ”になればと思っています。
野澤 本当に、人事としての覚悟が問われる取り組みですね。
渡邊 そう思います。それと最近改めて感じているのが「家族」の存在の大きさです。社員の中には、「配偶者に“会社を辞めないで”と言われて動けない」という方も少なくありません。今後は本人だけでなく、ご家族にも安心してもらえるような選択肢があることを伝えていくことも必要かもしれません。
そして何より、社内に“熱源”となる人を増やしていくことが大切です。実際に外に出て経験を積んだ社員が、自分の言葉で気づきを語ってくれること。それが結局、周囲の社員に響くんですよね。
野澤 そうした動きが、少しずつでも広がっていくことで、組織全体に文化として根付いていくのですね。
渡邊 そうですね。そして最後にお伝えしたいのは、ミドルシニアを「手に負えない存在」や「変われない世代」と決めつけてしまうことのリスクです。そんな見方をしてしまうと、社員からの信頼を失ったり、反発を招いたりして、最終的に組織全体が立ち行かなくなる恐れがあります。
大切なのは、「皆さんにはまだまだたくさんの力がある。その力をどう活かしていくか、一緒に考えていきましょう」というスタンスを、人事やマネジメント側が持てるかどうかです。そうした思いがあるかどうかで、発する言葉も、向き合い方もまったく変わってきますから。私はそこが本当に重要だと思っています。
野澤 渡邊さんのように、「この人たちは本当にすごい」と信じて伴走するスタンスがあるからこそ、ミドルシニア層の中でも新たな挑戦が生まれ、組織の中に良い循環が広がっていくのだと思います。私たちも、そうした流れをこれからも後押ししていきたいと思います。今日は貴重なお話をありがとうございました。